428人が本棚に入れています
本棚に追加
/305ページ
そう言い切った男の顔には、悲壮感みたいなものはなく。
どこかすっきりとしたその表情に、タクヤは最後の質問を投げかけた。
「埜口さん」
「……ん?」
「埜口さんが、そう思ったきっかけって、何ですか」
彼がこれまで、先生たちに迷惑を掛けると知りつつもずっと秘密にしていたこと。それを、どうして今になって打ち明ける気になったのか――
タクヤは顔を強張らせ、埜口の答えを待つ。
だが、彼はというと――
「だからその顔、やめてくれよ」
耐え切れず噴き出す埜口に、タクヤはムッと唇を尖らせる。
男は一応口元を押さえてはみたものの肩は震えていて、タクヤはハァ……とため息を漏らした。
「ちょっと……何なんですか、それ」
「あはは、ごめんごめん! 気を悪くしないで、ね?」
「…………」
彼に悪気がないのは何となく分かるが、それにしても、である。
タクヤが仏頂面を隠そうともせず男を睨むと、彼はもう一度「ごめんってば」と付け加えると、目じりの涙を拭った。
「だってさぁ……ほんとに君、似ているんだもんな」
「……?」
「だからさ、先生に、だよ」
友達同士も似るって言うけどここまでとはね、と男は愉快そうに笑う。
「先生、よくやるんだよなぁ。話を引き出したいって時に、そうやって……手を前に組んでね」
「え……あっ!」
「その後、俺の目の奥に答えが張り付いてんのかって思うぐらい、じーっと覗き込んでくるんだよ。その感じ、すごく似てる気がしてね」
「……」
タクヤはもう何も言えず、男から視線を逸らした。彼の指摘通り、テーブルの上でしっかり組まれていた手も膝の上へと隠す。
……何となく気恥ずかしい。
いつの間に、そんなに先生に似てしまったのだろう。
そして、そんな指摘が少し嬉しいような、でも余計に寂しいような気がして、タクヤは膝の上の手をさらに強く握り締めた。
埜口はそんなタクヤに、フッと小さく息を吐いて笑う。
「で……そうやって先生から影響を受けたのは、君だけじゃなくってさ」
最初のコメントを投稿しよう!