428人が本棚に入れています
本棚に追加
/305ページ
冷房の効いた部屋は、それでも冬のように寒いわけじゃない。
それなのに、あの雪の日を思い出してしまったのはなぜなのか……それはきっと、先生に初めて告白されたあの夜も、去る季節を惜しむような雪が舞っていたからなんだろう。
思えばあの夜からずっと、タクヤは恐れていたのかもしれない。
先生を、愛してしまうことを。
そして……いずれは彼を失う日が来るかもしれないことを。
「先生」
「はい……」
慧はまだ呆然としているようだった。
今まで自分のしてきたことを考えればそうなるのも当然で。タクヤは申し訳ない気持ちになりつつも、言葉を続けた。
「俺は、先生のことが好きです」
改めて口にすると、その重みで胸が潰れてしまいそうだった。
とても先生を見ていられず、顔を俯ける。
でも、ここで逃げたら、きっと今までと何も変わらない。
タクヤは拳に力を籠め、震える唇を開いた。
「でも……ずっと、怖かったんです。誰か一人を、愛することが」
「タクヤさん……」
「正直、今でも怖いです……だからね、先生」
タクヤはそう言うとすぐ、思いきり、目の前の胸へと飛び込んだ。
「わっ、タクヤさん……っ!?」
先生の慌てる声が聞こえてきたが、わざと無視してやる。その胸に顔を埋めると、先生の落ち着く匂いがした。
おずおずと、背中と腰に回された腕。
彼の体温に包まれながら、タクヤは囁いた。
「先生も、俺のこと、愛してくれますか」
「先生が愛してくれれば、俺も……俺自身を乗り越えられる、そんな気がするから」
そう告げた、次の瞬間。
ぎゅっとまた強く――いや、強いどころではない程の力で抱き締められ、タクヤはううっと呻き声をあげてしまう。
何とか身を捩って肩口から顔を出すと、慧はハッとしてその力を緩める。
それでも、その腕の中にタクヤを閉じ込めたまま、彼はこくこくと何度も頷いた。
「はいっ、もちろん、もちろんです……っ」
きつく抱き締められているせいで、先生の顔は見えなかった。
でも、その肩越しに見えた大きな月は、二人のこれからを照らすかのように、柔らかく輝いて見えた。
最初のコメントを投稿しよう!