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ほんの小一時間ほど前まで触れ合っていた、先生の少し厚みのある唇。それが再びタクヤの唇を塞ぐ。
彼の「先生」が良かったのか、それとも彼自身のセンスが良かったのか……とにかく、慧のキスは巧みで、腰がすぐ砕けてしまいそうになる。
「んっ、ぅん……っ」
場所が場所だし、声を出さないようにしようと思った傍から上ずった声が漏れ出て、タクヤは思わず彼を押しのけてしまった。
(あっ、やばっ)
……そう思った時にはもう遅かった。
先生は咄嗟にタクヤの肩をがしりと掴むと、くるりと二人の位置を入れ替える。
そしてそのまま、タクヤを玄関の扉に縫い付けた。
「ちょっ、先生……、ん、……っ!」
最後まで言い終わる前に、熱い舌先がタクヤの歯列を割って入ってくる。
その動きは、さっきよりずっと情欲に塗れていて。
「ぁ、ん……ッ」
口の中の気持ちのいいところを上手に刺激され、鼻に掛かった悲鳴が漏れる。慧に肩を掴まれ、しかも大きな身体で覆い被さるように押し付けられているせいで、タクヤはもう慧の為すがままだった。
ぞわぞわと背骨を舐めるような電流が幾度も腰から駆け上がってくる。
薄手のチノパンの前はすっかり盛り上がり、同じように、慧のものが腹に当たっている。
ありありと想像できる先生のそれ。太さも長さも相当な逞しいそれを、今すぐ奥で感じたい――溺れるような口づけを交わしながら、もうそれしか考えられない。
そして、激しく、たくさん、突き上げて……
「……?」
突然、圧し掛かっていた重みがフッと消える。
暗かった視界も明るくなった気がして、タクヤはそろりと目を開けた。
「……先生?」
視線の先にいたのは、赤くなった顔を背け、唇を拭う慧だった。
「すみません、タクヤさん。僕……また、止まれなくなるところでした」
照れ隠しの笑みを一瞬だけ浮かべた慧は、そんな顔を見られたくないのか、すぐにタクヤに背を向ける。
そして、「行きましょう」と声を掛けると、いそいそと来客用のスリッパを並べだしたのだった。
廊下を進む、先生の背中。
それを眺めながら、タクヤはもんもんとした気持ちになっていた。
(あそこでやめるか、普通?)
……いや、そりゃやめるだろう、と冷静な自分が突っ込む。
一枚隔てた向こうはいつ誰が通るか分からない場所なのだ。むしろ、あのまま盛り上がっていたら大変なことになっていたはずで――
(そりゃ、そうなんだけど……でも、あそこでストップを掛けるのは俺の役割のはずだろ?)
「あの……タクヤさん?」
急に振り返ってきた慧に、タクヤは危うくぶつかりそうになったのを寸でで耐える。
「どうかしましたか?」
「……いえ、別に」
「……?」
慧は少し心配そうな表情を浮かべたものの、そのままドアノブに手を掛けた。
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