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「先生、起きたんですね」
「あ、はい、さっき……」
「って、俺も寝ちゃってたんですね」
これ、ありがとうございますとタクヤは身体にまとったタオルケットを持ち上げて見せる。慧は「いいえ」と言って……顔を伏せてしまった。
「あの、先生?」
「……」
タクヤが呼んでも、なぜか先生は入り口に突っ立ったままそこを動こうとはしない。
どうしたのだろうと思っていると。
突然、身体がふるりと震える。続いて大きなくしゃみが出てしまい、その間の悪さにタクヤは「すみません」と呟いて顔を背けた。
だが、それが良かったらしい。
「だ、大丈夫ですか!?」
ティッシュを持ってソファへと飛んできた慧。
その勢いと大げさな心配のしように、タクヤは「大丈夫です」と答えながらくすくすと笑ってしまった。
……が、笑ってばかりもいられない。
「ねぇ、先生」
タクヤはぽんぽん、と自分の隣を叩く。このチャンスをものにしなければ。
「……」
先生は若干渋い顔をしたものの、素直にそこに腰掛けた。
「どうしたんですか、そんな顔して」
俯いたままの先生を覗き込めば、予想通り、何か思い詰めたような顔をしていた。
「……先生?」
黙っていても分からない。でも、無理矢理急かしてまで吐かせたいわけでもない。ただでさえ先生は疲れている。あまりいじめるようなことはしたくなかった。
「先生、もっとこっち」
若干距離をあけて座った先生にそう呼びかけておきながら、タクヤの方から身体を寄せていく。そして、掛けてあったタオルケットを、慧の膝に半分掛けてやった。
腕に感じる、先生の身体と体温。
「寒くないですか」
何が起こるのかと身構えていたらしい彼は、タクヤの問いに静かに首を振る。
そして、ようやく固く結んでいた口を開いた。
「自分が、その……あまりに情けなかったんです」
また俯いてしまった慧は、ほとんど聞き取れないような声でもごもごとそう呟いた。
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