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「すみませんでした……辛かったですよね」
大きな手が背中を優しくさする。
「今、抜きますので」
慧はその手をタクヤの腰と、もう一方を張り詰めた自身の根本に添えると、ことさらゆっくりと腰を引いていく。
「ふ、ぅ、……っ」
突かれている時とはまた違った快感が、腰から脳天へとじわじわと駆け上がる。
入れた時より育っているそれにじっくりと濡れた内側を引っかかれ、さっきとは別の意味で全身に鳥肌が立った。
失われていく痛みと圧迫感。どくどくとやかましかった心臓も少しずつ穏やかになっていく。
これで良かったはず。
なのに――
「せんせい、」
タクヤはシーツから顔を浮かせると、背後へと上体をひねる。
「あっ、痛かった、ですか?」
タクヤは慌てて首を横に振る。それを見て安心したのか、先生は「あともう少しですからね」と、子供に注射を我慢させる医者みたいな台詞でタクヤを宥めた。
このまま、終わりにするつもりなんだろうか。
本当にこれで、良いのだろうか――
「いや、ダメです先生」
「えっ」
「抜かないでください!」
まさかの訴えに、慧は「い、いや、ですが……」と困惑した顔をする。その一方で腰がぴたりと止まるあたり、理性と本能がせめぎ合っているのだろう。
そしてそれは、タクヤも同じだった。
怖い。でも、ここで終わりにしたくない。
誰にも見せたことのない、自分も知らない、深いところ。
それを、先生にだけは見せてもいい気がした。
「ねぇ……先生」
「はい」
「俺は、大丈夫です。だから、やめないでください」
「しかし……!」
身体は素直なくせに、先生はなおも抵抗する。
タクヤはとうとう、奥の手を使うことにした。
「先生……いや、慧、さん」
「……!!」
先生は声も出せず、惚けたようにこちらを見つめている。
……が、次第にじわじわと赤くなっていく顔とゆるむ口元は、慌てて隠したところで手遅れで。その反応に気を良くしたタクヤは、震える腕を突っ張ってなんとか上体を起こすと、その目で彼を呼び寄せた。
慧は半分抜いたままのそれでタクヤを刺激しないように気を付けながら、タクヤの方へと慎重に顔を寄せる。
その汗に濡れたシャープな頬に、タクヤはぴたりと片手を押し当てる。
そして、こう言ってやったのだった。
「ねぇ、もっと奥……来れますよね?」
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