Leave it to you!

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「店長、なんか意外って顔しちゃってますけど……私みたいな奴ばっかりだと思いますよ、(ここ)の人間なんて」 ミクはふんと鼻を鳴らすと、ジョッキの中身を一気に呷る。 「皆、何だかんだ店長のこと好きだし、尊敬していますから」 そう言い切ってすぐに「すみませーん」と店員に手を挙げる。ミクの興味が酒に移ってくれたのが唯一の救いだった。こんなに赤くなった顔は流石にごまかしようがない。 「……」 タクヤもまた、あんなに大切に味わっていたグラスの中身を一息に胃袋へと流し込んでやった。 「で、だからこそ私……躍起になっていたんです。どうにかして店長と差別化しなきゃ、って」 「……差別化?」 「ちょっと、何ですかその言い方~」 「え、どうかした?」 「だって今、そんな言葉知ってたんだ~みたいな顔してましたよね?」 「いや、そこまでは思わないけど……少し意外かな、と」 「…………」 ミクにじろりと睨まれ、タクヤはとりあえず新たに注文した酒を啜ってごまかした。 もちろん彼女を馬鹿にする気はみじんもない。が、意外だったのは本当だ。彼女がそんなことを考えながら働いていたなんて。 彼女はタクヤをもう一度睨んだが、「まぁいいですけど」と呟いて再び口を開いた。 「たとえば、店長に完全にマンツーマンで教えてもらったら、どうなるかなって考えたんです。きっと、楽っちゃ楽だけど……でもそれじゃあ結局、店長のコピーにしかならないよな、って……」 「だからずっと、あんな感じで一人でやっていたってワケか」 「そういうことです。でも今回、腹を決めて店長にお願いしてみて……色々と間違いまくってたなって、思い知らされましたけどね」 彼女はそう言って笑うと、さっきと同じサイズのジョッキにゆっくりと口を付けた。
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