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「こちらこそ、改めておめでとう、ミク」
「ありがとうございます……」
「……」
「……」
「……なに」
「店長、もしかして照れてます?」
「別に照れてないって」
「いや、顔赤くなってますけど?」
「いや、それはアルコールのせいで……!」
「いやいや店長、そういうの顔に出たことないじゃないですか。そういやさっき、みんな店長のこと尊敬してるって言ったときも赤くなってたし……」
「えっ、気付いてたの!?」
「気付きますよ、そりゃあ……私の気持ちに気付かなかった誰かさんじゃあるまいし?」
「……」
してやったりなミクに遠慮なしに笑われ、タクヤは額に手をやって完全に火照った顔を隠すと、ハァ……と深いため息を吐いた。
「で、店長……実はもう一人、店長からお礼を言ってほしい人がいるんですけど」
新しい酒を受け取りながら、ミクは突然ぐっと声を潜める。
「えっ、俺から?」
「はい」
「えっと……誰に?」
「……」
さっきまでのやかましさからは一転、急に押し黙られ、タクヤもその雰囲気にのまれてごくりと唾を飲み込む。
彼女は口元を手で覆うと、猫のような大きな目でタクヤを見つめた。
「それはですね……ずっと、寂しい思いをさせたであろう方です」
「……だから誰よ?」
妙な言い回しについ眉をひそめる。本当に誰なのか見当もつかない。が、彼女はそんなタクヤの反応をどこか面白がっているようにも見えてきて……
(何か嫌な予感がするぞ)
タクヤは一旦落ち着こうとグラスを手にする。
ミクはその様子をどことなく悪い笑顔で見つめていた。
「本当に誰だか分かりませんか?」
「分からないね」
「そんなの、一人しかいないじゃないですか」
彼女ははっきりとそう言い切ると、ニヤリと口角を上げる。
そして、グラスを傾けるタクヤの耳元に唇を近づけた。
「店長の……彼氏さん、ですよ」
「……ッ!??」
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