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まるで漫画みたいに吹き出したタクヤに、テーブル中の視線が一気に集まる。
「どっ、どうしたんですか店長?」
「大丈夫ですか!?」
ミクの時とは違いわらわらと集まってくるスタッフたちに、タクヤはテーブルやら口の回りやらを拭きながら、「いやいや、ちょっとむせちゃっただけだから」と引きつった笑顔を向けた。
「おい橋本、あんまり店長に迷惑かけんなよ!」
「はぁ? 別にかけてませんけど~?」
二号店の副店長であるショウがミクに絡み、彼女もいつものように軽くあしらう。
でも、今日はもう一人、横からたしなめる声が飛んできた。
「ミクさん、あんまり店長にヘンなこと言わないでくださいよ?」
「分かってるって!」
フミトに釘を刺されてもなお、ミクはどこか嬉しそうな顔さえしている。
タクヤはバクバクと煩い心臓の辺りを押さえながら深呼吸を繰り返す。一刻も早く落ち着かなければ。
……というか、そもそも。
なぜ、ミクの口から「彼氏」なんて言葉が出たんだ……??
「……気になります?」
ミクに心を読まれ、またどきりとしてしまう。それでも聞かないわけにはいかなかった。
渋々といった感じで頷くと、ミクは「どこから話そうかなぁ」と大きな目をくるりと瞬かせた。
「店長が日曜日の夜、誰かと会っているっていうのはたぶん、皆知っていて――」
「ちょ、ちょっと待って」
「何ですか?」
「いやいや、何で皆知ってるんだよ?」
いきなりの爆弾発言に思わずミクに詰め寄る。でも彼女はやはりけろりとしたもので、「そりゃそうですよ」とさも当然のように返した。
「だって日曜日の店長、いつもとぜんっぜん違いますもん!」
「はぁ? 何が?」
「何がって……何もかも違いますけどね。でもまずはその服装ですかね」
「いや同じだろ」
「いや、普段は何ていうか、ラフっていうか、若干チャラついた格好してるじゃないですか」
「チャラついた……」
「でも、日曜日はなんかこう、少しキレイめっていうのかな? とにかく、気合の入った格好してきますよね?」
「い、いや、してないと思うけど……?」
「いやしてますよ絶対!」
ミクはそう断言すると、「それだけじゃないですからね」と語気を強めた。
「店長、お客さんの対応していないとき、たいていどこ見てるか自分で気付いてます?」
「いや……」
「時計ですよ、時計!」
「……!!」
「ほんとチラチラチラチラ……見てるこっちが恥ずかしくなるって、よくフミトと話してたんですよ」
「フミトまで……」
タクヤは手で目元を覆う。あまりに最悪だった。このままこの場から逃げてしまいたい。
……でも、ミクの攻撃はこれで終わるどころか、とんでもない爆弾をもう一つ、残していたのだった。
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