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「…………ッ!!」
タクヤはがばりと頭を抱える。が、そんなことをしたところで、この涙が出そうな恥ずかしさをやり過ごす足しにもならなかった。
(まさか、アレを見られてた、ってことか……!? でも、どうして……?)
タクヤは恐る恐る顔を上げる。そして、相変わらず派手な色が良く似合うミクを見やった。
すると彼女は気まずそうな顔をジョッキで隠すと、「私だって、こんな覗きみたいなことしたかったわけじゃないですから!」と口を尖らせた。
「あの日、いつもみたいにフミトと飲んでたんです。でも、何だか店長のことが気になって。最近だいぶお疲れだったし、もしお店でぐったりしてたらどうしよう、って……。それで、フミトと一緒に店に戻ってきたんですが……そうしたら、なぜか正面の玄関から明かりが漏れていて。えっ、どうしたんだろうって近寄っていったら、そこで……店長と、あの背の高い彼氏さんが思いっきり抱き合っていて――」
「いい、もう、分かったから……っ!!」
「何ですか、店長が聞きたそうにしてたから教えてあげたのに」
「いや、そりゃそうだけども……ん??」
「何ですか?」
「ってことは、このこと……フミトも知ってるってこと?」
「あっ、はい、もちろん」
「マジか……」
だからさっきのあの台詞だったのか。
まさか、長く勤めてくれている二人に知られてしまったとは――。
「でも、店長はもっと私たちに感謝すべきですよ」
「……こうして誰にも言わないでいてくれたこと?」
「いや、そもそも誰彼構わずバラしたりなんかしませんから。それよりも、ですよ」
「……?」
「二人がさらに盛り上がる前に、あそこを離れてあげたことに、ですよ!」
「いや、流石にそれ以上のことは店では……、~~ッ!」
余計な事を言ってしまったと気付いた時にはもう遅く。
「店長」
ミクは勝手に、タクヤのグラスめがけて既に何杯目かのジョッキをこつんと合わせる。
「どうぞ、お幸せに♡」
そして、爪先まで赤くなっているタクヤに向かってこれ以上ないほどの笑みを浮かべたのだった。
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