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「それじゃあ、皆さんまた火曜日に~!」
新店舗の店長の元気な声で、ミクの祝勝会兼親睦会は無事(?)に幕を閉じた。
季節通りの冷たい風が火照った頬と茹った頭に心地よい。
本当に今日は、ジェットコースターのような一日だった。
ちなみにあの後、ミクに代わってやってきたフミトに逆に謝られ、タクヤはますます忍びない気持ちになった。
「フミトが謝ることは無いからさ……」
「いやでも、やっぱりこうなっちゃったんで……」
フミトは呆れた顔で、ショウとやりあっているミクの方を見やった。
「俺言ったんですよ。今日のことは絶対に秘密にしようって。当然、店長にも言わないようにしようって。だって、あんな店長、初めて見たし……」
「……っ」
無意識に追い打ちを掛けてくるフミトに、タクヤは「いい、もういいから……」と息も絶え絶えに首を振ることしか出来なかった。
「ところで店長」
「ん、なに……?」
「その、彼氏の方のこと、ですけど」
「……」
もう本当によしてくれ……と思いながらも、負い目がある分強く出られずフミトの次の言葉をただ黙って待つ。
すると彼はいきなり、とんでもないことを言い出したのだ。
「その彼氏さん、今度、店に来てもらったら良いんじゃないですか?」
「……えっ?」
ぽかんとするタクヤに、フミトはらんらんと目を輝かせた。
「いやだって、切ってみたくないですか、好きな人の髪。自分の手で、その子をもっといい感じに出来るわけですよね。俺だったら絶対、店に呼びますけどね」
曇りのない目でそう楽しげに語るフミト。
そんな彼が眩しすぎて、タクヤは少し意地悪なことを言ってみた。
「いや、でもさぁ……もし、店にまで呼んだ奴と、その後別れることになったらどうするんだよ。気まずくないか?」
だがフミトは全く気分を悪くした様子もなく、むしろ、どこか憐れむような目でタクヤを見つめた。
「そういう時は向こうから来なくなると思いますし……それに、最初からそんなこと、心配しなくたっていいと思いますよ……?」
「……」
ぜひ考えてみてくださいね、とフミトはいつもの犬みたいな人懐っこい笑顔で締めくくると、激しいバトルを繰り広げる二人の方へと混ざりにいったのだった。
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