Leave it to you!

295/305

428人が本棚に入れています
本棚に追加
/305ページ
ピピピ、ピピピ、ピピピ…… 無機質な電子音がけたたましく響く。 「「……!!」」 完全にになっていた二人は、共にびくんと身体を震わせる。そして先生は弾かれたようにテーブルの方へと走っていき……そして、静かになったスマホを手に戻ってきた。 「アラームですか?」 「はい、切り忘れていて……すみません」 「っていうか、今、何時――」 慧が手に持ったそれを確認するより早く、タクヤはヘッドボードのスマホを手繰り寄せる。 少し眩しいそれに目を細めつつ画面を見て、タクヤは「えっ」と小さく声を上げた。 「先生、今まだ五時じゃないですか!」 「あ、はい……」 「いや、何か文句があるとかじゃないんですけど。ただ、ずいぶん早起きなんだなあって」 「……」 「だって、先生の事務所って確か十時オープンでしたよね?」 実際、今までも日曜夜に彼のマンションに泊まったことはあったが、タクヤを送りながら事務所に向かうのはいつも九時前で、そんなに早起きしないと間に合わないという感じでもなかった。 そんな純粋な疑問に、しかし慧はちょっとだけきまり悪そうな顔をする。 そして、ぼそぼそとこう呟いた。 「……癖になっているんです」 「癖?」 「はい。中学の頃からのもので……」 「へぇ、勉強とかしてたんですか?」 「いえ、勉強ではなく……その、素振りを」 「素振り? っていうのは剣道の、ですよね?」 「はい。といっても今はそこまでやってはいないんですけどね。でも、すっかりそういう身体になってしまった、といいますか……」 先生はタクヤから目を逸らし、白い頬を赤らめている。 実際、アラームのなる前に目を覚まし、シャワーまで浴びているぐらいだ。彼の言う通り、そのリズムが骨の髄までしみ込んでいるのだろう。流石大学まで剣道を続けてきた人だなぁと感心してしまうのだが、慧にとってはあまり知られたくないことだったようだ。 「いや、普通にすごいと思いますけどね」 「いや……」 「だって俺なんて、九時出勤で起きるの八時とかですよ?」 「それは……ある意味すごいですね」 「ですよね?」 二人でくすくすと笑い合う。 さっきまでの雰囲気は消えてしまったが……窓のない暗いホテルなのに、ほわりとそこだけ明るくなったような感じがした。 「ああでも昔、めちゃくちゃ早起きしていた時期もあったな」 慧を自らの横へと呼び寄せながら、タクヤは懐かしむようにそう呟いた。 「あの時は確か、三時には家を出てたような」 「三時ですか!? またそれはどうして……」 「ああ、バイトですよ、新聞配達の。うちの学校、制限厳しくって。新聞配達とかぐらいしか選択肢無かったんです」 その当時は毎日目覚まし時計とバトルしながら、何とか販売所に駆け込む日々だった。高校一年までは部活もしていた訳で、よくやっていたなと我ながら思う。 慧はそんな話を、じっとタクヤを見つめながらいつものように真剣に聞いていた。
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!

428人が本棚に入れています
本棚に追加