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「おめでとうぅ~(*´-`)」
メッセージの末尾についた絵文字を見て安堵する。
(良かった…。とりあえず怒ってはいないみたい。)
私が婚約を報告したのは、親友にとっては元カレにあたる人物だった。
「誰から?」
私の喜びの表情に気がついたようで、隣で珈琲を飲んでいた彼が顔を上げる。
ムーディなジャズに包まれたカフェで、私たちは窓辺の席に座っている。
「ハルカからのメールなの。おめでとうって祝ってもらえて、よかったなぁって。」
私のその言葉に、彼も心から安心した様子だった。すでに関係が切れているとはいえ、今でも元恋人という立場のハルカのことを、気にかけてくれていたのだろう。
「そっか。よかった。」
「うん。ほら。」
私は送られてきたハルカからのお祝いメッセージが彼にも見えるように、スマホの画面を向けた。
「……っ、」
その瞬間、彼の表情が凍りつく。
「その絵文字…。」
彼はとても具合の悪そうな顔色で、珈琲カップを受け皿に戻した。
「まだ使ってたんだ。その絵文字が出るアプリ。」
「え? これ、アプリで使える絵文字なんだ。」
「使えるというか、『変換』した言葉には、目印としてつくようになっているみたいだ。」
極めて深刻な彼の表情と言葉の意味が掴めずに、私は聞き返す。聞かなければよかったと、後に後悔することを。
「何を『変換』するアプリなの?」
「呪いの言葉を、」
と彼は答えた。
「祝いの言葉に『変換』して、相手に送ってくれるアプリなんだ。」
直接会って、顔を見て、声を聴いて、相手と話す。そうした機会の減ってしまったこの時代では、手元に届く言葉すらも何処で歪められているかわからない。
その『変換』を見破ることはとても困難で、だけど私のように『変換』の先にあった真実に辿り着くことの方が、不幸なのかもしれない。
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