* 岩井メデルの法則 *

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* 岩井メデルの法則 *

*** 「結局さー。岩井さんって誰だったの?」 「はあ? いったい、何のことだ?」  神妙な顔で尋ねてくるのは幼なじみのサチ。  真面目な面持ちや仕草からは想定できないほど、彼女は勉強が苦手な子だ。  だから、素っ頓狂な質問を受けるのだって、何もこれが初めてというわけでもない。だけど……。 「何って、ユキが言ってたんじゃない! 岩井メデルの法則って!」 「?」 「私が珍しく追試回避したらさ。『今日はいっぱい甘やかさないと。これって、岩井メデルの法則かな』って」 「……ぶはっ」  幾分、今回は破壊力が強すぎる。 「なに、なんで吹き出すのよー!?」 「いや、悪い悪い。それで、サチは思ったわけか。岩井さんって、メデルさんって誰だって?」  ハーフらしき人名と言えば、人名かもしれないが……。  どうして、人名と思い込んでしまったのやら。 「当たり前じゃない! メンデルの法則とフレミング……は覚えてたけど、岩井メデルはノーマークだったから、学年末試験に向けて不安が募ってきたというか……。って、ユキ?」  なるほど。メンデルの法則や、フレミングの左手の法則を覚えた流れから、か。確かにメデルで終わればそれっぽいかもしれないが……。 「なんで、笑うのよー!!」 「……悪い、悪い」  ひいひい言いながら、サチに向き合って、事実を語る。  岩井メデルさんなんて、俺は知らないと。そして……。 「俺が言ったのは『祝い愛でるの法則』だよ」 「祝い、愛でる……」 「そっ、『祝い』目出度い気持ちと、愛でたくなる……つまり『愛でる』気持ちって何だか似てるってな」 「え、あ……。え、っと……」  さっき迄の勢いは何処へやら。  サチは真っ赤になって、黙り込む。理由ははてさて。  勘違いに恥じてしまったのか。  それとも、自分が愛でられる対象であることを意識したのか。  後者だとうれしいなと思いながら、俺は静かにサチを見守っていた。 【Fin.】
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