19人が本棚に入れています
本棚に追加
※
ただひたすらに走って、走って、走り抜いた。足を止めたら最期。黒いソレに捕まって、あの暗闇に連れていかれてしまう。そう思えば恐怖で足が震え、何度も転びそうになる。途中何人かの人とすれ違ったが、疾走する芙羽に怪訝な顔を向ける者や、スマホから顔を上げずに芙羽に気づかない者ばかりだった。
黒いソレは普通の人には認識されない。わかっていたはずなのに、いざ自分が窮地になって誰にも助けを求めることができないと思うと怖くてたまらなかった。呼吸は乱れ、肺は経験したこがない痛みを訴えている。もう長くは走れないだろう。
ちらりと後ろを振り返ると、昼間の道路に似合わない黒いソレがすぐ後ろまで迫っていた。近くには日傘をさした女性が歩いている。もしもここで芙羽が襲われたらどうなるのだろう。日傘の女性も巻き込んでしまうのだろうか。わからない。けれど、もしも巻き込んでしまったらと思うとそれも怖い。
再び前を向くと、見慣れたいつもの公園が目に入った。やみくもに走っている内にいつの間にか辿り着いていたようだ。これもなにかの運命なのかもしれない。
疲労で足はもつれ、これ以上は走れないだろう。最期はここがいい。開都が死んだ場所で自分も死のう。芙羽は迷わず公園へと足を踏み入れた。
最初のコメントを投稿しよう!