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声が、聴こえたような気がした。
芙羽は驚いて目を開く。辺りを見回しても開都の姿はない。けれど、確かに開都の声が聴こえたのだ。同時に脳内に一瞬で開都との思い出が溢れていく。
『2人で絶対幸せになろう』
開都の、男性にしては少しだけ高くて落ち着いた声。芙羽はその声で名前を呼ばれるのが好きだった。
2人で幸せになる。そう言われた時は涙が出るくらい嬉しくて、2人でおばあちゃんとおじいちゃんになるまで一緒にいようねって何度も約束をした。
あぁ、よかった。思い出せた。瞳には涙の膜が張り、自然と視界はぼやけてくる。見上げた先には、真っ黒に広がった黒い煙のソレがいた。大口を開けたかのように、黒い煙の中に更に黒い空間があり、もう芙羽の目と鼻の先にまで広がっていた。
きっとあの中に入ってしまったら終わりだと本能が警告する。でも、もういいのだ。芙羽は身体の力を抜いてぼんやりとソレと向き合った。
「開都……、私開都がいないともう、どうやって生きていけばいいかもわからないの。私もそっちに連れていってよ……」
開都を殺した犯人を見つけたかった。もうそれも叶わない。ソレから逃げる術を芙羽は知らない。向こうにいったら開都は芙羽を怒るだろうか。
真っ暗な暗闇を前に芙羽は静かに目を閉じた。きっとこれで本当に芙羽は死ぬのだろう。最期に開都を思い出せてよかった。
「開都、今、会いにいくからね……」
「……それはちょっと困るなぁ」
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