2.雄風と飛廉

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「志之介くん、どこか怪我を……」 「芙羽さんすみません」  芙羽と志之介が言葉を発したのは同時だった。驚いて志之介を見れば、志之介も芙羽を見ていて目が合う。志之介の表情は乏しいが、微かに目を瞠っているから驚いているようだ。芙羽はなぜ志之介が謝るのかわからずに首を傾げた。 「どうして謝るの?それよりも志之介くん怪我はしてない?」 「俺は大丈夫です。怪我はありません。謝罪をしたのは……」 「犯人に逃げられたか」  志之介が答えるより早く飛廉の鋭い言葉が飛び、志之介は悔しそうに頷いた。志之介がここへ来てからずっと俯いていたのは、犯人を逃してしまった事からの芙羽への自責の念によるものだった。  犯人が捕まらない事に恐怖を感じはするが、志之介が無事に戻って来てくれただけで十分だと思えてしまう。芙羽はもう目の前で知っている人が傷つくのを見たくなかった。 「……謝ることはないよ。それよりも志之介くんが無事でよかった」 「芙羽さん……」  素直な気持ちを伝えれば、志之介はまた俯いてしまった。変な事を言ってしまったかと芙羽が慌てていると、飛廉は手を叩いて笑い出す。
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