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『仙道死ね!まじで死ね!ほんとあいつのお団子みたいな頭きもい!ウンコだよ、ほんとウンコ女!頭の中にもぜったいウンコが詰まってんだ。だからウンコって僕が言っただけでぶったたいてくるんだ、なんだよ手を出したほうが悪いのになんで僕が叱られんだよー!』
とか。まあ、こんな具合である。ハゲとウンコは小学生男子の悪口の王道であるらしい。その二人絶対可愛かったんだろうな、なんてニヤニヤしながら聞いていたのはここだけの話である。
そう。好きな女の子がいる、なんてクラスメートにでも知られたらどれほどからかわれるかもわからないお年頃の彼が。信頼できるであろう吹雪相手とはいえ、はっきりと恋心を自覚して相談してきた。わけである。
そりゃあもう、兄貴分としては感動するしかないだろう!ああ、これが雛鳥を見送る親鳥の気持ちなのかと!
「感激するなってのが無理な話だよなあ……うっうっうっ。気になる女の子にウンコとかハゲとかクソとかデブとか言ってたお前がさ……ちゃんと恋愛をするだけの心と器を育てられたのかと思うとぉ……ふぶ兄ちゃんマジで感激だぞぉ!」
「キモいからやめてくんない?さすがにドン引きなんですけど?」
吹雪の態度に、やや白目になっている螢。そのタイミングで、カラスが“カァー”と鳴いてくれたもんだから、まるでコメディでも見ているかのようである。空気読みすぎじゃないだろうか、野鳥殿。
「ああもう、話進まない!変なツッコミしないでとりあえず聴いて!」
螢はぺしっ!とランドセルにブッ刺していた定規で吹雪の背中を叩いてきた。地味に痛い。
「その、す……好きな女の子の名前が、佐藤深月ていうんだけど!」
「おう、可愛いのか?可愛いんだな?」
「可愛いよそりゃ……ってだから茶々いれんなっ!」
二度目の定規アタック。うっかり手に持ったアイスバーが落ちそうになって慌てる。小学生にとっては六十円のアイスの価値は計り知れないのだ、落としたなんてことになったら残念すぎるというものである。
この時吹雪が予想していたのは、好きな子とお近づきになるためにはどうすればいいのか?という恋愛相談だった。今時は小学生であってもバレンタインやクリスマスでプレゼントを持ち込んでくる輩は少なくない。うちの学校は校風も田舎らしくゆるっゆるなので、スマホを持ってくるななんてことも言われていないくらいだ。
何かプレゼントでもしたいのかな。あるいは夏休み前に思い切って告白したいのかな、そんな呑気なことを考えていたのだが。
「その子を助けたいんなよ、ふぶ兄」
言われたのは、意外な言葉だった。
「深月のやつ、いじめられてるかもしれないんだ」
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