<1・はなす。>

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<1・はなす。>

 好きな子が出来た。弟分である風間螢(かざまほたる)が相談してきた時、浪川吹雪(なみかわふぶき)は思わず盛大にその背中をぶったたいていたのだった。 「おおおおお!お前も成長したんだな螢!だよな、だよな、お前ももう四年生になったんだもんな。女なんかみんなクソ、まじきもいー!って毎日言ってた時期は卒業したんだな。俺は嬉しいぞお!」 「痛い痛い痛い!そして無駄に声がでかいよふぶ兄っ!」 「いやはや、俺は感動している!可愛い弟分も無事に初恋を知って大人の階段を登ったのかと……」 「誤解されそうな物言いやめて!?」  ちなみにここは、近所の公園。学校帰りに駄菓子屋でちっちゃなアイスバーを買って公園のベンチで食べるのが、吹雪と螢の恒例だった。特にもうすぐ夏休みというこの時期、ちっちゃなアイスでも冷え効果は絶大と言っていい。これを食べて変えるだけで、蜃気楼が見えそうなアスファルトの坂道もだいぶ楽になってくる。まあ、子供のお小遣いなので、残念ながら毎日買って帰るだけの予算はないわけだが。  小学校六年生の吹雪と、四年生の螢。二人の見た目は多分、実際よりも差があるように人様には見えることだろう。理由は単純明快、吹雪がランドセルを背負ってなければ年齢詐称だと疑われそうなほど身長が大きいこと。そして螢が四年生のわりに随分とちみっちゃいことである。おかげでこうして座っていると、中学生の兄貴と低学年の弟だと誤解されることも少なくない。吹雪は必死で身長を伸ばそうと牛乳を飲みまくっているようだが、果たしてどこまで効果があるのやら、だ。  そんな自分達は、螢がまだ幼稚園の頃からの付き合いがあったりする。同じマンションに住んでいて、ようはその頃からご近所付き合いがあったためだ。幼稚園や低学年の頃の螢は今よりも泣き虫で、とにかく吹雪の後ろを“ふぶ兄ちゃんふぶ兄ちゃん”と言いながらくっついて回るような可愛い奴だった。昔から小さい彼はいじめられがちで、そのたびに喧嘩が強い吹雪が守っていたというのもあるのだが。  そしてそんな彼にも小学生あるあるの、“女のコが気になるからこそ悪口を言ってしまう”お年頃があったわけである。コレの時期が何時頃になるのかはかなり個人差があるが、彼は低学年の頃がまさにその真っ盛りであったようだ。気になった女の子の悪口をひたすら貧困なボキャブラリーで吹雪に愚痴りまくっていた時期があったのである 『田中のやつまじでうざい!ちょっと机の並べ方がズレただけでネチネチネチネチネチネチネチネチ!しつこいったらありゃしない。あいつなんかさっさとシワクチャのババアになってハゲちまえばいいんだ!』  とか。
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