1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「道田さん、久しぶり。驚いてしまって、ごめんなさい。」
「道田さんが言った通りでしたね。中西さんこんなにびっくりしてる。」
橋本たちはおかしそうに笑い、優子夫婦は興味津々と言った様子で、創太と未来を見ていた。
ホテルのスタッフがコーヒーを持ってくると、其々が話し始めて、未来と創太は自然とペアのようになってしまった。
「驚いたよな。ごめん。俺も受賞者の名前を目にした時には、今の中西さんみたいになったよ。」
未来は軽く頭を振って、何とか言葉を返した。
「道田さんが謝ることないよ。本当に驚いてるだけ。」
なかなか言葉が続かない未来に向かって、創太が話し始めた。
「前期から官公庁の担当になったんだ。俺の性格なら民間企業よりも合っているんじゃないかって言われて。」
「そう。」
「うん。それが、こんな事ってあるんだな。」
「うん。」
「話しもしたくない?」
相槌を打つのがやっとの未来に向かって、ボソッと呟くように創太は言った。
驚いて顔を上げた未来が見たのは、気まずそうに笑う創太だった。
「そんなことないよ。」
未来は慌てて首を振って、胸はチクッと痛んだ。
「良かった。」
どこか寂しそうに笑いながら、当たり障りなくと言った感じで、創太は続けた。
「仕事は順調?」
「うん。フォアフロント企画からの仕事が主だけど。フリーになってそろそろ一年になるし、そればっかりだとダメだと思って、応募してみたの。」
「そうか、凄いな。まさか、こんなに早く仕事で会えるなんてな…。」
感心したように話す創太だったが、少し考えてから小さく首を横に振った。
「いや。仕事でも会える日がくるなんて、思ってなかったかもしれない。」
未来は手持ち無沙汰にコーヒーカップを手に取って、頷いた。
「そうね。私なんかが、こんな大きな代理店と絡むなんて、夢みたいな話だもんね。」
「そんな意味で言ったんじゃない。未来らしくないな。」
カップの中の揺れるコーヒーを眺めていた未来は、えっ⁉︎と驚いてしまい、危うくコーヒーをこぼしそうになった。
そんな未来の様子に、創太もまた慌てて言った。
「ごめん。俺、思わず。」
「ううん、いいの。私だって…。」
と言いかけてから、コーヒーカップを口に運んだ。
私だって何だというのだ。
『道田さん』と呼ぶ度に、まるで発生練習をしているような気分でいると言ったところで、どうしようもないのに。
気まずいまま、コーヒーも飲み干してしまい、途方に暮れていると、橋本の声がした。
「そろそろ会場に移動しましょうか。式典の進行に合わせて、皆さんは舞台前に並んで頂くことになりますので。」
そう言われた村上は、優子に頑張ってと声を掛けると、皆に会釈をし先に会場へと行ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!