動揺

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会場の扉はまだ開いたままで、たくさんの人が中にいるのが見えて、未来はさり気なく青島の姿を探したが、見つけることは出来なかった。 ひとつだけ閉まった扉の前には、ホテルのスタッフがいて、橋本が首から下げた名札を見せると、頷いてから扉を開けてくれた。 中に入るとざわざわと騒がしく、案内された舞台前には仕切り用のポールが置かれていて、未来たちはその前に案内された。 未来には創太とその上司が、なぜ自分たちと並んで立っているのか不思議だったが、担当代理店なら当然なんだろうと思い、青島が気付いたらと思うと、気が気ではなかった。 「緊張してきた。こんなの私、初めてで。」 と優子が小声で言うと、私もです、と未来は答えた。 まさかこんなことになるなんて、本当に予想外のことだと未来は思った。 招待された同業者たちと挨拶を交わしていた青島は、舞台袖の扉が開くのに気がついた。 そして、まず創太が会場に入ってきたのを確認すると、大きなため息が出そうになった。 今回の事業にどこの代理店が関わっているかなど、調べるまでもなく、部下の風間に聞くとあっさり返事が返ってきた。 ただ、誰が担当なのかということまでは知る由もなく、そんな偶然はないだろうと、内心、否定していた。 未来のことだから、そんなことなど気にせずに応募したのだろうと予想は出来たし、確かめたところで、それをわざわざ言うつもりもなかった。 知った顔の元同僚の後から入ってきた未来の表情は、固かった。 かわいそうに、せっかく受賞したのに、よりにもよって創太と顔を合わせることになるとは、素直に喜ぶことも出来ないのかと不憫に思えた。 定刻通りに式典が始まり、市長を筆頭にして、しばらくは挨拶と拍手が繰り返されるという時間が続く。 気が抜けない最前列で、そろそろ足が痛くなってきたなと思い始めたところで、司会から続いては表彰式です、とアナウンスがあり、未来は急に緊張してきた。 観光協会の所長からコンテストについての説明があり、優子の名前の後に未来が呼ばれて、2人揃って舞台に上がり、賞状と副賞の目録を受け取った未来は、花束を手にした創太たちが舞台に上がっているのに気がついた。 思わず優子の顔を見たが、特に戸惑っている素振りは見えなかったので、きっと私が聞き逃してしまったのだと察した。
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