動揺

4/5

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
司会から、協賛代理店より花束の贈呈ですと声が かかると、余計な事を、と青島は顔を歪めた。 創太が舞台に上がったのを見た未来の動揺する姿を、複雑な思いで見守る。 嫌な予想は当たるもので、未来の前に立った創太が何かしら口にしながら花束を渡し、幾分、柔いだ表情で受け取った未来と握手を交わすのを、青島は目を閉じてやり過ごした。 堅苦しい式典が終わり懇親会が始まると、招待された参加者はここからが本番とばかりに、会場はまた騒がしくなった。 青島もどうしようもなく苛立つ気持ちを紛らわそうと、その中に割って入って行く。 すると、誰かを探している様子で歩いてくる未来の姿が見えて、咄嗟に駆け寄りたいくせに、しばらくほっといてやろうという意地悪な気持ちにもなってしまい、自分自身にげんなりしたが、青島を見つけた未来が、心からほっとした笑顔になったのを見て、いかに自分が無意味なことをしようとしていたのか思い知る。 「中西さん、おめでとうございます。」 挙げ句、祝いの言葉も部下の風間に先越され、開きかけた青島の口元は引きつった。 「風間さん、ありがとうございます。」 笑顔で応えた未来は、そんな青島に何かを勘違いしたようで、さっと表情が曇った。 そんな2人を交互に見た風間もまた、あさっての方に受け取ったようで、にこにこしながら青島に言った。 「ゆっくりお祝いを言ってあげたいですよね。邪魔者はしばし消えますよ。」 そうして風間は、あとでね、と未来に片手を上げると、人混みに消えた。 未来がその後ろ姿を見送っていると 「おめでとう。」 と優しい声がして、見上げた青島の表情は穏やかで、未来は少し拍子抜けしてしまった。 あの…、と言いかけた未来に、青島は首を振った。 「わかってるよ。何も知らなかったんだろう。俺も代理店までは知ってたが、担当まではさすがに把握してなかったよ。」 「大丈夫か?」 覗き込む青島の目は、小さな子どもを心配するようなそれで、未来は泣きそうになってしまった。 「そんな顔するな。ここで抱きしめてもいいなら、構わないけどな。」 青島なら本当にやりかねないと、未来は大丈夫ですと慌てて両手を振った。 「そうか?残念。」 と、嘘とも本気とも取れる顔で青島が言うので、未来は呆れて笑ってしまった。 そんな未来の笑顔に、安心した様子の青島だったが、ふとその表情が変わったので、視線の先を確かめるように、未来も振り返った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加