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「村上さんっ…と、」
断る理由なく付いてきたと思われる創太が、バツが悪そうに村上たちの後ろにいて、未来は頭が真っ白になった。
「久しぶりだな、青島。」
そんな未来にはお構いなしに、創太の隣にいる上司の男性が言った。
「田中。お前も元気そうだ。」
青島の返事に、すっかり抜け落ちていたその上司の名前を、やっと確かめることができて、未来は内心ホッとした。
「ロゴ部門で入賞した村上さんが挨拶したいとおっしゃるので、お連れした。」
田中がそう言うと、青島はにこっと笑った。
「この度は、おめでとうございます。青島と申します。」
よろしく、と名刺を出した青島に、2人も…特に優子は嬉しそうに挨拶をした。
「道田も久しぶり。」
青島の声に、僅かな緊張が混じったのを未来は感じて、息苦しくなった。
そして、ご無沙汰しております、と丁寧に頭を下げる創太を見て、また心が痛む。
そこへ人だかりになっているのに気が付いた風間が戻ってきて、また名刺交換が始まった。
自然と輪になってしまった中で、自分がどんな顔をしているのか分からず、未来は無理に笑顔を作ろうと必死になっていた。
話をしているのは主に田中と、それに応えるように青島で、皆は興味深そうに頷いているのだが、創太の所を見ることが出来ない。
「中西さん、飲み物貰ってこようか。」
突然、名前を呼ばれて
「ふはぁっ⁉︎」
と言葉にならない声を上げてしまい、未来は右手で口を押さえて振り向いた。
創太も少し驚いた顔をしてから、持っていた空のグラスを左右に振った。
「皆さん、盛り上がって空になってるから。」
微笑む創太にそう言われて見渡すと、確かにそろそろ追加が必要そうだ。
「そうだ…、ですね。行きましょうか。」
動揺を隠せないまま、何よりも青島のことが気になったが、仕方なく創太の後ろをついて行く。
すると創太は歩いてきたウェイターに声をかけて、
抜けてきたばかりの輪を指して、飲み物を持って行くように頼むと、未来に行った。
「俺たちは自分で取りに行こう。」
未来が戸惑っていると、いーからっ、と創太は笑って元いた場所と反対方向に歩き出した。
「同級生らしいな。」
田中が言うと、一瞬の間の後、あぁと青島は短い返事をした。
未来を呼んだ創太を、思わず睨んでしまった青島に対して、当の創太はほんの少し頬を動かしただけで、その目に敵対するような鋭さはなかった。
余裕がないのは自分の方かと、青島は歯痒い思いで2人の背中を見ていた。
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