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動揺
こんなに驚いたことは、今までなかったかもしれない。
今日は観光協会設立の式典で、ネイビーのスーツに、この日ために買った胸元の大きなリボンが印象的なブラウスを着た未来は、表彰式のために最前列に立って、一点を見つめながら両手を握り締めていた。
後ろにいる大勢の参加者の中にいるはずの青島に、すぐにでも会いに行きたかった。
式典が開かれるホテルの宴会場に未来が着くと、観光協会の橋本が出迎えてくれた。
デザイン部門で受賞した優子は、夫婦で来ていた。
橋本に案内されて控室で3人になったところで、2人はすぐに未来に向かって頭を下げた。
「先日は申し訳ない。まさか藤森があんなことするなんて思わなくて。」
村上が言うと、優子も続けて謝った。
「女と見れば口説くような奴だけど、さすがにみんな驚いてしまって。怖かったでしょう?ごめんなさいね。」
未来はびっくりして、両手を振るような仕草をした。
「お2人が謝ることじゃないです。本当に送ってもらっただけですから大丈夫です。」
そんな未来の言葉に、2人はほっとしたようで、顔を見合わせると腰を下ろした。
「こんなこと聞くのもアレだけど、中西さん、藤森のことこっぴどく振った?」
「えっ?」
「いや、次の日にさ、やっと電話がつながったと思ったら、藤森のやつ歯切れが悪くて。何かやらかしたのかとも思ったけど、いじけてる様子で変だったから。ビシッと言われたのかと思って。」
未来は少し後ろめたい気持ちになって、言いにくそうに口を開いた。
「駅で私とおつき合いしている彼と鉢合わせしてしまって、そのせいだと思います。」
思いがけない話に村上と優子は目を見開いて、そして笑い出した。
「そうだったの!まあ、藤森にはいい薬になったでしょ。でも中西さんは大丈夫だったの?彼氏、怒ったでしょ。」
「いえ、そんなことないです。大丈夫ですよ。」
これ以上、心配かけるわけにもいかず、そして何より相手が青島だとやっぱり言い出しづらくて、未来は笑って誤魔化す。
すると控室のドアがノックされて、橋本に続いて部屋に入ってきた二人の男性のうちのひとりの顔を見て、未来は息を呑んだ。
創太は、そんな未来の反応を予想していたかのように、真っ直ぐに未来をみつめて優しく笑った。
橋本が今回の担当代理店だとか、そんな説明の後に、未来の目の前に名刺が差し出されて、創太の隣に立つ男性と、震える手を何とか抑えながら名刺を交換した。
「中西さんとは大学の同級生なんです。今回、受賞者の名前を見た時、僕も驚いてしまって。」
「おめでとう。」
懐かしい創太の声が酷くこもって聞こえたが、お祝いの言葉に応えなければと未来は顔を上げて、創太の名刺を受け取った。
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