おめでとうございます、あなたは選ばれました！

　ですが困ったことは、そういうことだけではないのです。

　例えばですね、あなたは悪い魔物と戦ったが、命乞いをするそいつを見てあわれに思い、逃がしてやったとします。そうすると、「ちゃんと罰を与えるべきだった」という読者がいるんですね。
　または、逆にあなたがその魔物を殺していたとすると、今度は「主人公の方が乱暴じゃないか」という読者がいるんです。

　あるいはですね、あなたが誰かと結婚したとします。するとですね、「そのキャラじゃなくて、あのキャラと結婚してほしかった」とか、「この主人公は結婚しないでほしかった」という方がいるわけですよ。

　そんなことは、芸能人だって言われている？　そうかもしれませんね。

　ですが、あなたがこれからなるのは芸能人じゃなく、小説の主人公です。

　あなたが自分の部屋にいるときにちょっといらいらしていて、うっかり独り言で誰かの悪口でも言おうものなら、「最低！」と言われるかもしれないのです。

　あなたが寝る前に物思いにふけっているシーンが描写されたとすれば、「そんな寝間着を着ているなんてイメージに合わない」と言われるかもしれないのです。