ホワイトムスクの雪

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「先生、私に何かする気でしょう」 私は思わず咥えたタバコを落してしまい、慌ててそれを拾う。 「ま、まさか…」 上杉さんは動揺した私を見て、表情を変えてクスクス笑い出した。 こんなからかい方をして上杉さんは楽しむ癖がある。 上杉さんは傍にあったクッキーの箱を開けてテーブルの真ん中に置く。 「北アメリカの大停電。先生知ってます」 北アメリカの大停電。 一九六五年に起きたアメリカとカナダに跨る大停電で、オンタリオ、コネチカット、マサチューセッツ、ニューハンプシャー、ロードアイランド、バーモント、ニュージャージー、ニューヨーク州に約十二時間電力供給がされなかった。 「あの停電の十か月後にベビーブームが起こってるんですよね。人間って危機を感じると子孫を残そうと本能的に感じるんだそうですよ」 上杉さんはクッキーを摘まむと口に入れた。
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