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③僕の覚醒
僕の夢は、現実に近づいていた。
ユウイチとの一度きりの関係は、
お互いを気まずくさせた。
俺は、自らの深層を知り、
ユウイチは、それが過ちだったと知った。
程なく、ペアを解消し、
部活内でも話すことを一切やめた。
俺は、もう僕の存在が大きくなり、
侵食が進んでいることを、
否定できなくなっていた。
そして、僕は次のステージに進んでいく。
2個上のケンタさんは、
部活の先輩。
日焼けした肌に、
180センチ超の身長、
そして部活で鍛えられた筋肉。
俺が理想とする、容姿だった。
厳しい先輩達の中で、
ケンタさんは唯一違った。
俺は、なかなか成長しない新入部員。
他からは、冷たい視線を浴びる俺を、
いじりつつ、可愛がってもらった。
そんなケンタさんも、
夏に引退してしまい、
絡む機会もほとんどなくなっていた秋、
学祭準備期間中の、とある放課後の事。
いつもは通るもの恐れ多い、
先輩クラスの廊下を通る。
少し大人な、甘さと苦さが混在していた。
それ以上の感情もなく、
資材調達の為に通っただけ。
「よぉ!学祭準備か?」
ケンタさんの声だ。
「そうっす!先輩は?」
「俺は野暮用」
「そうなんすね!てか、先輩太りました?」
引退したケンタさんは、
少し肉付きが良くなり、
ますます俺の理想に近づいていた。
「だなー。腹なんかプニプニしてるさ」
「全然すよ!なまらガタイいいすよ!レスラーみたい!笑」
「そうかぁ?」
歩き出すケンタさんの後を追う。
先輩クラスの端にある物品室に、
ケンタさんも向かっていた。
「俺、そんなレスラーみたいか?」
「はい!羨ましいすよ!俺なんてまだこんなちっさいし……」
160センチにもまだ満たない俺。
「そうか。こんな体好きか?」
「憧れます!」
「ふーん、それだけ?」
初めて体の内側からゾクゾクした。
俺は、内に秘め続けていた僕を、
少しずつ前に押し出した。
「見てみたいす!」
「何を?」
「先輩の筋肉!全身!笑」
「俺に脱げって言ってんの?」
ケンタさんは、ニヤけた顔をする。
「すみません!変な事言って!」
「しょうがねーな、腹が少しだらしないから恥ずかしいけど、上だけな!」
ケンタさんは、指定ジャージの上を脱ぎ、
上半身を見せつける。
部活焼けした肌は少し落ち着き、
確かに筋肉の上に軽く脂肪がついた、
僕の想像通り。
「すごいすね!胸筋!腹はちょっと……」
わざとおちょくってみせた。
「触ってみていいよ」
2度目のゾクゾク。
先輩命令だ!と、都合良く考えた。
ケンタさんの胸板をツンツンする俺。
「失礼します!やっぱムキムキすねー、羨ましいす!」
「それだけか?もっと触っていいんだぞ」
見透かされたような気がして、
ゾクゾクから、ドキドキに変わる。
俺は、ノリだと思われるように、
大袈裟にケンタさんの胸元に顔を埋め、
背中に腕を回し、
思いっきり深呼吸してやった。
「いい匂いがします……」
少し大人なあの匂いに、
俺はもう僕の声を止められなかった。
ケンタさんは、俺を可愛がる目で、言う。
「それで終わり?」
「えっと、どうしたらいいか……」
「ぺろってしてみて」
忘れもしない、僕の覚醒。
「どこがいいすか?」
「上から順番」
「はい」
まずは、胸板あたりをゆっくり味わう。
「少しずつ下がって」
「はい」
腹筋からおへそにかけても同様に。
「どんな味する?」
「ちょっとしょっぱいです」
「好きか?」
「うん」
初めて先輩にタメ口をきいた。
「俺は感じてるよ」
「うん」
僕はまだ感じるって意味がわからない。
でも、ケンタさんのおへそからさらに下、
まだ露わになっていない、
指定ジャージ越しにある、
ビクビクと脈打つ場所、
俺は見逃してはいなかった。
「ケンタ〜どこだ〜!?」
ケンタさんの同級生の声だ。
「わりぃ〜今行くわ!」
我に帰った。
「またな!忘れんなよ!次は……」
「はい!ありがとうございます!」
部活の返事の癖が出た。
何事もなかったかのように、部屋を出る。
蕾だった俺が、
僕という花を開く前、
まだ5分咲きの俺に、
水を与えてくれた出来事。
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