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「それでは、お預かり致します。何も問題なくお電話が行かなければこのまま受理されたことになります。誠におめでとうございました。遅くにお疲れ様でした」
俺の言葉を聞いた男性は、静かに今まさに妻になったばかりの女性を引き寄せ抱きしめた。
「あ〜、僕に初めて家族ができたんだね。ありがとう…」
妻も夫の背中に回した手をトントンと優しく叩いているように見えた。
初めて?
俺は思わず、えっ?という顔をしたんだろう。
すると妻が微笑みを浮かべて
「私たち、施設で育ったので家族がいないんです。だから2人で一生懸命に働いて家庭を持とうと約束して来ました。5年かかりましたけど、明日は仕事を休んで写真だけの結婚式を挙げることになっているんです」
逆境にもめげず、ひねくれもせず支え合って来たであろうふたりを見て、俺は恥ずかしくなった。
それに引きかえ、俺はどうだ。
他人の幸せに心の中で罵声を浴びせ、一度でもここに来た人たちに"おめでとうございます"と心から言ったことがあったのか…。
みんな何かしらの縁で夫婦になり幸せになろうとしているんだろ。それに対して俺は…。
ふたりは、俺に礼を言い、オマケに「夜勤は大変ですよね。お疲れ様です。僕たちも夜勤の仕事なんでわかります…」
そう言い残して帰って行った。
なんだろう、柔らかいものに包まれたようなそんな気持ちになった。
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