①始まりの予感

1/1
前へ
/8ページ
次へ

①始まりの予感

俺は咲き誇る街頭の桜に、 俺を重ね合わせていた。 ありったけの美と、 惹きつける香と、 儚いその隆盛を。 籠の中から巣立ちをした俺は、 ごくごく一般的な大学へ進み、 初めてのアルバイトも始めた。 外見も磨き、 可愛さと格好良さを兼ね備えるように、 ファションを変え、 髪型を変え、 格好を付け、 それを惜しむ事なく見せつけていた。 そしてそれは花散る俺の、 始まりとなった。 ユースケさん24歳、タカシさん23歳、ヒサシさん22歳、 3人はバイトの先輩。 みんな成人を超え、 俺に大人の世界を教えてくれた。 初めてのタバコ、 初めての酒、 初めてのギャンブル。 年齢的にも弟キャラが定着し、 バイト終わりには、 定番の朝まで囲む卓に付き合わされる。 当然のように先輩のお使いに走らされても、 素直に従う俺を、 先輩達は可愛がってくれた。 当時の俺にとって、 3つ以上歳が離れた先輩達は、 今まで味わった事のない、 大人な魅力を放っていた。 その年代の男たちが話すことは1つしかない。 その内容、 武勇伝みたいな事を、 俺は散々聞かされ、 その対象と俺を重ね合わせながら、 悶々とする日々。 特にユースケさんは、 上背はないものの、 髪をカラーリングし、 少し襟足を伸ばして、 昔ヤンチャしていただろう、 色んな事を経験してる、 一目でわかる鋭い目をしている。 怖いようで、 でも何故かユースケさんの側にいるだけで、 仕事を教えてもらっているだけで、 ドキドキしてしまう俺がいた。 ある真夏の夜、 ユースケさんは、 俺を自慢の助手席へ乗せ、 峠を攻めた。 その帰りの事。 既に12時を回っていた。 「ちょっと眠くなったな、運転代われるか?」 「こんなゴツい車、無理すよー」 「だよなー。じゃあどっかで休憩すっか」 「ですねー」 まだ、 あちこちにコンビニなど無い時代、 街中から外れたところにあって、 休憩するとなれば、 あらかた予想はつく。 休憩と言われ、 とっさにカマをかけた。 「ユースケさん、泊まりじゃなくですか?笑」 「はぁ?いつも俺は休憩しか使わないの!笑」 さすが、 わかってる大人だ。 「そうなんすねー、俺も休憩かなー。行った事ないけど!笑」 「俺、速攻だからさ!笑」 「俺もです!笑」 車を走らせ続けるも、 なかなか休める場所などない。 「しょうがないから、休憩使うぞ」 ニヤッとしながら俺を見る。 「はーい」 可愛らしい返事とうらはらに、 もしかしたらと俺は次第に熱くなっていった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加