②屈辱

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②屈辱

安っぽい作りの部屋だった。 ベッドの天井が鏡になっている。 俺は当然初めてで、 それでもその場末な艶かしさに想像が止まらない。 「鏡張りじゃん、やべえな」 「丸見えで、興奮しますね!もう、俺それだけで…笑」 「ガキじゃん!笑」 「ガキで結構!もう、先走って…」 悟られないように、 でも、 気付かれたい。 そんな悶々とした俺。 「せっかくだし、風呂くらい入っておくか」 ユースケさんは、 さっさと風呂に入り出した。 すりガラス越しに、 ユースケさんの脱衣姿が、 ぼやけて映っていた。 俺の関心はただ一つしかない。 風呂に入っているユースケさんは、 まだ出てこない。 音を立てないように脱衣所へ向かい、 正座しながら無造作に脱ぎ捨てられた、 ボクブリを手に取る。 汗とジバンシーの香水と何かが混ざった、 俺がまだ知らない匂い。 じわじわと俺のヤツが反応する。 中身が気になる。 普段は絶対に見せないユースケさんの姿を見たい。 そうしていると、 おもむろにユースケさんが風呂から出てきた。 「???」 下着を手に取っている姿を見られた。 「あっ!脱いだものまとめておきました!部活やってたから、先輩の服整理したりするの癖みたいになっちゃって」 慌てて取り繕った。 「パンツ臭かっただろ?」 ちょっと上から目線の口ぶりにドキドキした。 「結構臭かったすね!笑」 「嗅いだのか?」 「興味本位で…すみません!」 「ふーん」 ユースケさんは、 薄ら笑みを浮かべながら、 躊躇なく腰に巻いたバスタオルを外し、 髪を拭き上げ始める。 前触れなく現れた俺の獲物は、 想像の上をいくものだった。 明らかに場数を踏んでると一目でわかる、 そんな熟成された獲物を初めて目にした俺は、 若気を止められなかった。 「ユースケさん!出てますよ!」 「何が?」 「その…あれ…」 一応目を背けて指差した。 「そんなとこ見てるんだ」 「これも興味本位で…」 ユースケさんがゆっくりと近づく。 「違うなー俺はわかるぞ」 俺の眼前に自慢気に獲物をちらつかせ、 「ほら!」 言ったのと同時に髪を掴まれた。 自然と上目遣いになった俺の鼻先へ、 獲物を突き付け、 俺の頬に叩きつける。 「どうなんだ?」 思わず口が開く。 こう言うしかなかった。 「下さい…」 「やっぱりな」 俺は、 シャワーを浴び、 ベッドでタバコをふかしているユースケさんの横に滑りこんだ。 俺は、 受け入れる準備を既に済ませていた。 タクミ先輩以来の、 あの痛み。 ユースケさんなら、 もう少し、 上手に、 そしてまだ俺が開発されていない奥底まで、 優しくしてくれると想像して。 現実は違った。 ユースケさんは、 前触れも、 順序もなく、 半ば強引に、 後ろから一方的に繋がりを持った。 もっと時間をかけて欲しかった。 もっとユースケさんを知りたかった。 しかし、 俺は自らが標的としたものに、 逆に狩り獲られてしまった。 準備のない行為。 感情のない行為。 余韻のない行為。 高ぶり続けるはずの最中、 何故か俺には違和感しか残らなかった。 何が違うのか? 何が必要なのか? 俺は、 答えを出せずに、 さも悦んでいるような声をあげ、 受け入れるだけの屈辱の時を、 ひたすら過ぎるのを待つしかなかった。 一方的に事は済んだ。 一瞬でも愛されると思った。 バカだった。 同じ行為のはずなのに、 あの時とは全く違う。 俺は済んだ後、 痛さなのか、 怒りなのか、 悔しさなのか、 わからない涙が出た。 これなら、 タクミ先輩だけに、 しておけば良かった。 もう取り返しはつかない。 俺は未熟さと無知さを、 胸に刻みながら、 再びユースケさんの車に乗った。 まだ明けない闇夜の空が、 俺を染めていく気がした。
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