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④決心
俺の心は、
身体との乖離を加速していった。
俺が密かに求めた思いは、
盛りの頃は結実し、
儚い蜃気楼のような幸せだったにせよ、
満ち足りたものだった。
散り時とは知らずに、
薄っぺらな自信に驕った俺は、
求められれば求められる度に、
余命を削り、
それを振り撒き、
演じてみせた。
しかし心はどんどん拒絶していった。
マサトシとの関係は、
一度きりにした。
俺が望んだことだ。
マサトシは普段から、
あからさまな態度や仕草をするようになり、
俺は怖くなった。
秘事である事で、
口には簡単に出せない思いを、
お互いが蓄積して、
それがお互いに熟成されて解放される時、
身も心も満たされると信じていたからだ。
あの時までのマサトシのままだったら、
マサトシが男であってくれたら、
俺は今でも愛おしいと思っただろう。
マサトシは、
俺の深層に突き刺さる存在にまでは至らなかった。
既に散り具合も佳境に入った俺の、
今思えば愚かな結論だったかもしれない。
2年になると、
俺は友人関係を控え、
一匹狼になった。
身体的特徴を活かした、
流行りの格好に身を包み、
夜な夜な繁華街を彷徨っていた。
簡単に、
俺くらいの容姿でも、
群がる連中がいることを、
この頃俺は知っていた。
軽薄だと知りつつ、
いつまでも埋まらない隙間を、
埋められる夢を抱いて、
事だけが回数を重ねていった。
高級スイートルーム、
温泉旅館、
非常階段、
車の中、
真夏の夜の砂浜、
どんなシチュエーションも、
どんなテクニックも、
虫唾が走るくらいの甘い囁きも、
俺を満たしてくれるどころか、
俺に演じる上手さしか残さなかった。
そんな日々を過ごしていた。
2年もの間。
齢21の俺。
もう花としての魅力は、
失われていたと知った。
自らが持つ、
能力に応じた飾らない美しさではなかった。
化粧をするが如く、
創作された美しさだったから。
一番の盛りに執着し、
それを維持するために整形する如く、
自己陶酔の美しさだった。
俺は、
綺麗な人形に成り下がったのだと気付いた。
トンネルの中間地点にいた俺。
その先の光はまだ見えない。
もう花は散った。
一つの時代に幕が下りた俺は、
愚かな自分の心の声に、
やっと耳を傾ける決心をした。
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