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①標的
苦しみの結論。
俺は体裁を守り、
僕は真実に従う。
ひとまず棲み分けすることにした。
どちらも自分だ。
まだ一体化するのは無理だった。
精神性の俺と、
本能としての僕は、
相容れられる程、
俺も時代も未熟だったという事だろうか。
春の香りが訪れ始めた頃、
俺は公立の共学進学校を蹴り、
難関私立男子校へ入学した。
何故なら、
ランク的にも高く見栄えが良かった事、
同じ学校から俺以外合格しなかった事、
受験日に感じた校舎に漂う青い想像、
花盛りの短い三年間、
体裁と真実の同化を企んだからだ。
相変わらずの白肌に、
対照的な男の証拠を身にまとう、
俺がいた。
既に憧れは変わっていた。
見た目のなりたかった憧れに、
対象を重ねていたのは過去の事。
俺自身が、
ありのままで魅力的になる事、
俺も躊躇う事なく素直に求める事、
求めた対象から求められる事、
俺の花を咲かせる準備は整った。
体育系の部活を続けるのは辞め、
ここでは文化系に入った。
音楽系だ。
部活紹介の時、
30人ほどのグループが、
曲を奏でていたが、
曲なんて耳に入らなかった。
俺の視線の先には、
俺と血縁があると見紛うばかりの、
同一性を感じる人がいたからだ。
[決めた]
過酷な部活だった。
楽器など触ったこともない。
俺は楽譜は辛うじて読める程度で、
同期は経験者ばかり。
始業前の朝練、
放課後はどの部活よりも最後、
休日も練習があった。
それでもよかった。
タクミくんが居たから。
タクミくんは一個上、
担当楽器の先輩。
俺より身長は若干高いが、
色白でメガネ男子。
近くで見ると、
俺より切長な目、
しっとりとした厚い唇だった。
でも全体的な雰囲気が似ているものを感じた。
長男として育った俺は、
どこかで兄貴を求めていたのかも知れない。
まるで兄のように、
叱り、
庇い、
成長させてくれる、
タクミくんを先輩として尊敬していた。
朝練の時、
チューニングもままならない俺。
同期経験者は白い目で見る。
専門用語も飛び交い、
理解が深まらない。
それでも、
俺は伸びしろを見せた。
タクミくんの指導だった。
朝練も、
居残りも、
嫌な顔一つせず一緒。
手取り足取り状態。
聞けばタクミくんも、
初心者から始めて、同じ境遇。
外見も身長以外は似ていたから、
部内ではホントの兄弟のように扱われた。
半年後の3年生引退の演奏会。
ど素人からスタートした俺が、
足を引っ張らずに、
担当パートをこなせたのは、
紛れもないタクミくんのおかげだった
俺は嬉しかった。
兄貴が出来たようだった。
そして俺は兄貴に期待していた。
初めて兄貴を見たあの日から、
俺は密かに求めていたから。
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