②重なる想い

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②重なる想い

三年生が引退した冬休み。 集中合宿のことだった。 同じパートだった俺とタクミくんは、 同部屋になった。 夏の合宿もあったが、 二、三年生だけなので、 俺にとっては初めての合宿。 いつもとは違い、 クタクタになるまで行われる練習が終わり、 部屋に戻ると、 先にタクミくんは着替え始めていた。 まぁ、同部屋だから普通の事だ。 生真面目なタクミくんとは、 実はプライベートな話をしたことは少ない。 話すことは部活の事ばかり。 俺もそこまでタクミくんの趣味や、 例えば好きな女のタイプなど、 大して興味も無かったし。 俺の知りたい事はただ一つだし。 そんなの軽々しく聞けないし。 抵抗なく着替えするタクミくんを、 初めて見た。 無意識に俺の脈が早くなる。 汗で濡れたTシャツを脱ぐと、 色白な肌に、無駄のない筋肉、 腕に浮き出た血管、 腰のくびれ、 適度な腹筋。 俺を生き写ししているようでありながら、 そこに俺には無い、 滲み出る先輩としての風格もあり、 目を奪われた。 「先輩いい身体すね!全然気づかなかったす!」 俺から口火を切ってみた。 「そうか?まあ、お前もそっくりだよな」 自分の胸から腹を撫でる。 俺はまだこの時脱いでいない。 「僕、見せたことありましたっけ?」 先輩の前では、もちろん僕になる。 「ないよ。見たことはあるけどな」 どうやら、 俺がプール授業の時に、偶然見かけたらしい。 「もしかして、あの競パン姿みられちゃいました?」 「うん」 タクミくんは僅かに口元が緩んだ。 一年生には必ずプール授業が必須で、 まして指定競パンだったから、恥ずかしさの極みだ。 「恥ずかしいすね」 「俺に似てて恥ずかしい?」 「いや、周りからは似てるから弟みたいって言われちゃって…逆に迷惑かけてすみません」 「俺は逆にこんな弟なら歓迎だな」 俺は一気にタクミくんの懐に飛び込む。 「やった!おにいちゃん!笑」 「そこまでは許してないぞ」 先輩としてのお叱りだった。 生き写しは言い過ぎだ。 でも確かに似ていた。 きめ細やかな肌質や、 体毛の量、 筋肉のつき方。 もちろん、 まだ知り得ない未知の場所は除いて。 タクミくんは先に風呂へ行った。 先輩が先で、後輩はもちろん後。 見送って、部屋に残された俺。 タクミくんが不用意に脱いだTシャツがある。 しきたりみたいな感じで、 Tシャツや身の回りのものを整理し始める。 ふと、衝動に駆られ、 俺はタクミくんのTシャツの匂いを嗅いだ。 これといった特徴もなく、 いつものタクミくんの匂い。 いつも俺の隣で、 教えてくれる時の匂い。 学校ではあまり意識していなかったけど。 校内とは違う、 初めてのシチュエーションに、 俺は自分のベッドに横になり、 タクミくんのTシャツを嗅ぎながら、 俺は溢れる盛りの時。 理性はそこに無かった。 秘密の時間はあっという間に過ぎ、 タクミくんが戻り、 何事もなかったように俺は風呂へ。 長風呂が嫌いな俺は、 さっさと上がり部屋へ戻ると、 目を疑う光景が広がる。 タクミくんも、 俺が脱いだTシャツを手に取っている。 そして嗅いでいる… まさか俺と同じ事をタクミくんも…? 「先輩…それ俺の…」 思わず声をかけてしまう俺。 動揺する素振りも見せず、 「お前の匂いプンプン!笑」 クールなフリしてただの変態か? 「汗臭いすよ!俺のシャツ」 「お前の匂いだろ?俺は好きさ」 「…」 好きって? 俺の事? 匂い? 言葉が繋げず、間が出来た。 「悪ぃ!もうやめるわ」 迷った。 匂いが好きなだけ? 普通後輩のシャツ嗅ぐ? 俺は標的に向かって狙いを定めた。 「じゃあ先輩のシャツも嗅がせて!」 「ダメー」 「何でですか?」 俺は拗ねたように口を尖らせた。 「こっちおいで」 2つ並んだベッドの、 タクミくんの方へ、 不貞腐れた素振りを見せながら、 行く俺。 「来ましたよー」 さらに口を尖らせてみた。 「いいよ」 いつもとは違う一段低めの声で、 そう言うと、 タクミくんはTシャツをめくり上げ、 胸をはだけ出す。 「そのかわり直だよ」 来た!先輩命令だ! しっかりタクミくんのTシャツの中に、 頭を突っ込んで、嗅いだ。 「いい匂いすよ。ボディソープの。でも先輩の匂いもしますね」 「えっ!俺体臭する?」 「臭くないすよ、先輩のオトナな匂い!笑」 「お前のもいい匂いがどうか、確認するぜ」 Tシャツと短パンを脱がされ、 ボクブリ一丁になった俺。 「お前の匂いしないなー。つまんないなー」 俺は迫った。 「先輩!僕と似てる言われるじゃないすか。でも全部じゃないすよね?」 「そりゃそうだろ」 「僕、全部確認します!脱いで下さい!先輩もパンツ一丁!」 「いいよー。でもびっくりするなよ」 自慢気にドヤ顔する。 パンツ一丁になったタクミくんの、 今にも弾けんばかりの姿。 決して反応してるわけじゃないのに。 「あっ…確認しました…すみません」 「だーめ!触って確認!匂いもな!」 「はい」 薄い布地からわかる張りは俺より一回り大。 風呂上がりの匂いの中に、 初めて知った独特なタクミくんの匂いがある。 「わかったかー?弟!」 頭をポンと叩かれた。 それからは他愛もない会話。 就寝時間を迎える。 「おやすみなさい」 「なぁ、こっち来いよ」 「先輩怖がりですか?笑」 「違うよ!寒いから温めてくれよ」 「はいー、来ましたよ」 タクミくんのベッドに入り向き合うと、 じっと俺の目を見続ける。 突然、肩に手が回り、足も絡んだ。 「いいか?」 またいつもより一段低い声で囁く。 「うん」 そう答えるしかない。 今思えばタクミくんも初めてだったのだろう。 わずかに手が震え、汗ばんでいた。 タクミくんのベッドの中で、 俺は全てを晒した。 上から順番に、 これでもかとタクミくんから、 ぎごちなく優しい確認が入る。 俺はまだ知らなかった俺の感度が、 じわじわあがる感覚を知った。 一つ一つの確認に、 感電のような、震えのような、 血液が逆流するような感覚。 「可愛いじゃん。ここは俺とは全然似てない!笑」 ピクピクが止まらない俺を後目に、 普段は見せる事のない、 爽やかな笑みを浮かべるタクミくん。 俺も欲しくなった。 「先輩…僕もしていい?」 耳元でそう囁いた。 体勢が入れ替わり、 今度は俺がタクミくんを隅々まで確認する。 本命に辿り着いた時、 俺の鼓動は跳ね上がった。 色、形、張り。 いつものタクミくんとの、 ギャップが半端ない。 俺はたまらず、 持ち上げたり、 頬擦りしたり、 先端を重視したり、 匂いを堪能したり。 体をくねらせ、目を瞑り、 聞いた事のない、声を出している先輩。 その姿を見届けていた。 タクミくんも再び攻める。 俺はリミッターを振り切り、 ひたすらに感じ続けていた。 終着を迎えたのが、 2人同時だったのはこれが初めてだった。 互いの目を見て、 息遣いと、 鼓動を感じながら。 俺はタクミくんの胸の中で、 余韻に浸り続けた。 俺の狙いは間違ってなかった。 単純な興味、 単純な処理、 そんなんじゃない。 わすか数十分の中で、 二人の想いが重なった出来事。 それが愛とは程遠いものだったとしても、 新しい世界を見させてくれた。 俺はやっと苦しみから解放され、 追い求めてきた理想の瞬間が、 そこにあった。
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