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③春の訪れ
体を重ねる意味、
互いを求める意味、
そんな意味を朧げながら、
わかり始めた。
その側には、
先輩がいた。
もう兄ちゃんと言おう。
ただ合宿という、
非日常環境によってもたらされた兄ちゃんとの熱量は、
日常が訪れると何事もなかったかのように、
失われた。
俺も兄ちゃんも、
いつもの関係性に戻っていた。
手のかかる後輩だった俺も、
いつしか技量が付いて、
先輩後輩という感じから、
仲間意識という同列的な立ち位置に変わった。
兄ちゃんも、
次の夏が終われば引退し進路に向かう。
俺を含め後輩達は、
先輩達の引退を飾る為に、
コンクールでの成果を意識する。
お互いに、
あの日の事は、
もう一切口にしなかった。
まだまだタブーだった事。
ただそれ以上に、
互いに一瞬の欲求であった事も、
知っていたからに違いない。
反比例するように、
僕は成長を続け、
それよりも、
更に上級の繋がりを求めていた。
春がまた来た。
俺はますます自分の盛りに、
拍車をかけていく。
学年が上がり、
先輩になった俺にも、
担当する後輩が出来た。
名前はタケル。
俺より小柄でキラキラした二重に浅黒い肌。
まるでアイドルグループから飛び出してきたようだ。
人懐っこくて、誰からも好かれるタイプ。
俺にはない要素が詰まっていた。
俺は、
タケルの面倒をよく見た。
兄ちゃんがしてくれたのと同じように。
タケルもまた素直に慕ってくれた。
俺とは違い、
周りに対しても細かいところに気が付き、
それが嫌味にならない。
もちろん後輩は他にも何人もいるが、
タケルは一際目立っていた。
妙に甲斐甲斐しさがあるタケルは、
飲み物を用意してくれたり、
用具を事前に準備したり、
荷物を持ってくれたり、
もちろん部内だけの関係性だったから本質は知る由もない。
例え先輩に向けた機嫌取りだとしても可愛い後輩だ。
俺に見せるタケルの笑顔と、
俺だけに見せる上目遣い。
次第に俺はその真意を知りたくなっていった。
僕が求める一つ上の欲求も、
同時に高まっていった時と同じくして。
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