④結ばれた後に

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④結ばれた後に

夏休みの合宿で、 それは繰り返された。 練習後、 先に風呂へ行った俺が戻ると、 「先輩、洗濯物まとめておきましたよ!脱ぎっぱの服も!」 タケルはいつもの甲斐甲斐しさ満載に言う。 「悪りぃな!俺片付け苦手でさ」 「知ってます!いつもの事なんで」 普段のだらしなさを見抜かれていた。 「サンキュー!タケルってさ、何か嫁さんみたいだな!笑」 「そうですねー、先輩割とだらしないから、誰かそばにいないとダメすよねー」 「痛いとこ突かれたな。てかあの汗かいたTシャツもやってくれたんだ!臭かったしょ」 「臭いです」 「はぁー、ホント悪りぃな」 いくら後輩とはいえ、 部活後の汗まみれのTシャツまで片付けさせてしまい、 俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「僕、先輩の嫁なんで平気です!笑」 タケルは満面の笑みで返す。 その返しが、 俺の中の僕に火を付けた。 それを気づかれまいとする俺。 「早く風呂行ってこい!」 「はい!旦那様!笑」 こんなやりとりができるタケル。 あの可愛い顔で、 そんな事言われたら、 俺はどうすればいい? 今まではどちらかと言うと、 思わせぶりを駆使し、 確実な事を認識した上で、 求められるように受身でいた俺。 タケルが風呂に行っている間、 俺はひたすら僕に問いかけた。 結論はこれだった。 就寝時間。 2つ並んだベッド。 「おやすみ!明日も朝から早いんだからちゃんと寝ろよ」 先輩面した。 「やだ!1人で寝るの怖いー」 「何言ってるだよー、女子か!笑」 「ベッド変わると寝れないんすよ」 「確かに!あるかもなー」 「始めは先輩じゃなくて違う人だったじゃないすか、部屋」 実は、 俺は1人で部屋を使うはずだったが、 タケルと同部屋の子が風邪を引いてしまった。 そんな経緯でタケルは俺の部屋に来たのだ。 「そうだよな。関係あるか?」 「ベッドが違うのもそうですけど、目も冴えちゃって。先輩と一緒だから嬉しくて」 平気でそんな事を口にする。 「俺も隣に居るし、それなら安心して寝れるな」 どこまでも無関心を装う俺。 「だから逆です」 「…」 そう来たか。 俺は早くなる鼓動を感じながら無言を貫いた。 「先輩、そっち行っていい?」 僕はこの言葉を待っていた。 「まぁいいけど、寝ながらよだれ垂らすなよ」 「よだれ以外ならいい?笑」 「バカ!」 タケルは俺のベッドに潜り込んだ。 俺は一応背を向けている。 タケルは俺の方をじっと見てる。 視線が俺の首筋にあるのかわかるからだ。 「寝れないか?」 「うん」 「今日は少し冷えてるしな。」 「寒いです。温めて!旦那様!笑」 タケルはわざとらしく、 耳元に息がかかるようにしていた。 「しょうがないなー、嫁だもんな!笑」 さっきのノリに乗っかった。 タケルは、 後ろから俺にそっと寄り添ってきた。 「まだ男の匂いがしないな…」 そんな言葉は口には出さず、 そのままタケルが眠るのを待っていた。 どのくらい、温めるだけの時間が過ぎただろうか。 「先輩…本当に嫁にしてって言ったら…気持ち悪い?それとも怒る?」 タケルは辿々しくこう言った。 「怒らない」 「やっぱ、気持ち悪い?」 「全然」 「マジですか?」 「あぁ」 「なら、いいですか?」 「あぁ」 「先輩の事、もっと知りたいな?嫁なんで」 そう言ってタケルは、 俺の臍下に軽く手を添えてきた。 タケルの鼻息が激しくなっていた。 「じゃあ俺も旦那らしいことしなきゃな」 やり慣れているように、 自発的に唇を奪いにいった。 柔らかい。 まだ知らなかった俺。 唇が触れ合った後、交差する舌。 より深くまで繋がれる気がした。 唇が離れ、 俺はタケルの髪を触りながら、 ただ黙って見つめ続けた。 タケルが口を開く。 「ずっと前から想像してた…」 「これか?」 「うん、先輩とこうしたかった」 「俺もさ」 腕枕の中で、 タケルは俺の体のあちこちを、 突ついたり、なぞったり、 指先で確かめていた。 俺は意を決して、 「タケル…本気で嫁にしてもいいか?」 緊張と興奮を押し殺して囁いた。 タケルにその意味はわかっているだろうか? 俺だって初めての事。 結合する意味、 植え付ける意味、 攻める意味、 受ける意味、 タケルなら、 教えてくれると思った。 真っ直ぐに俺の目を見て、 タケルは頷いた。 タケルは当然未熟で、 なかなか受け入れない。 俺は懸命に、 じっくりと、 タケルを解き解していった。 ようやく繋がる瞬間、 2人から思いもよらない声が出る。 あの時俺を見た潤んだタケルの目と、 言葉にならず緩んだままの唇は忘れられない。 契りとなる初めての行為。 俺は僅かな時間で、 最終地点に到達していく。 「そのまま…いいか?」 「うん、やっと先輩のお嫁さんになれる」 「俺もタケルでよかった」 「僕も一緒に…いい?」 「ちゃんと言うんだぞ」 「うん…そろそろ…あっ!」 「うっ!」 タケルと俺の初夜の瞬間だった。 俺が嫁にするのは、 タケルが最初で最後と、 繋がってるその時は誓った。 タケルにしか、 こんな感情は起きないと思った。 タケルは俺の胸の中で眠り、 あの日と同じように、 俺は夜が明けるまで眠れない。 そして、 俺が本気じゃないように、 タケルもまた同じ。 それが、 結ばれた後に直感した現実。 タケルとは一度きり。 いつもの先輩後輩になった。 タケルも俺をもう求めなかった。 理由は同じだろう。 俺にまだ嫁はいらない。 タケルの旦那になる人は、 俺じゃない。
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