最終話⑥男として

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最終話⑥男として

俺は自我を認め、 大人になった気でいた。 そして最上級生になり、 いよいよ、 鳥籠からの巣立ちが迫っていく。 問題は、 周囲の環境だった。 最上級生ともなれば、 そのほとんどが、 男としての禊を済ませ、 それを誇示するようになる。 気が付けば男だらけの2年間、 俺は内なる自分との戦いだけに、 終始していた事に気付いた。 ただ周りはそれを知る由もない。 どことなく級友達との距離を感じ、 俺がどう見られているか、 気付かれてしまっていないか、 遅れをとっていないか、 それを払拭する事が、 自然と俺の優先順位になっていった。 盛りにいる俺を自覚しつつも、 俺は、 一度体裁を整える事にした。 最大の盛りは、 まだ先にあると、 高を括っていたからだ。 ここからは単純な振り返りと、 思って欲しい。 彼女持ちの同級生から、 紹介してもらった他校のヒロミが、 俺の最初の彼女だ。 ヒロミは、 俺が好きなアーティストのファンだった事もあり、 一緒にライブを見に行ったり、 普通に遊びに行ったり、 彼女なんだか、 友達なんだか、 よくわからない付き合い方だった。 俺はそれで良かった。 一応、 俺から告白した。 ヒロミには申し訳ないが、 ステータスでしかなかったし。 これで周りへの既成事実を作れた。 3ヶ月付き合い、 一度だけキスした。 それ以上の事は、 正直起こらなかった。 もちろん恋だの愛だの、 そんな想いは全くない。 そんな俺を見透かし愛想を尽かしたのか、 ヒロミは、 俺とあまり親しくない同級生と、 距離が近づいている事を知った。 言わば二股。 なぜか悔しい、 負けたような思いもあった。 キス以上がなかったとは言え、 俺は男として優しかったはずだし、 ましてや俺の深層を、 悟られるような振る舞いは、 一切してない。 ただ俺は自然消滅となるように、 ヒロミから離れた。 そして11月、 クリスマスが1か月後に迫ると、 相手がいない連中は、 ソワソワしだした。 俺も一応渦中に飛び込んでみた。 そして、 最後の彼女であるユマと付き合い始めた。 ユマは、 良く男女4人ずつくらいで、 カラオケに行ったり、 ゲーセンに行ったりするような遊び仲間であり、 その女子内では見た目も含めて中心だ。 彼氏は半年くらい居ない。 ただ、 俺がいつも連んでたAが、 ユマをずっと好きだったのも知っていた。 俺はAとユマを何とかくっ付けようと、 ユマとも良く連絡を取り合ったり、 ご飯食べたりしている中で、 どうやら俺を好きになってしまったようだ。 もちろん、 付き合わない事も出来た。 と同時に、 ユマと付き合う事で、 俺はAより優位性を感じられると思った。 Aは俺より背も高く、 しゃべりも上手い、 頭も少し良い。 仲間というよりも親友に近い関係が、 彼に男としてのコンプレックスを抱えた俺に、 卑屈さをもたらしていたのかもしれない。 結果俺はユマと付き合い始めるが、 Aとはそれで友情にヒビが入る事もなかった。 ユマは交友関係も広かったが、 ほぼ毎日、 帰る時にはわざわざ俺が乗るバス停で途中下車し、 俺を待っててくれて一緒に帰った。 お菓子やケーキをよく手作りして、 持ってきてくれた。 彼女としては、 申し分ない子。 クリスマスには、 マフラーと手袋をプレゼントしてくれた。 初めてのプレゼントらしいプレゼントだった。 そんなユマと付き合う中で、 俺はもしかしたら、 このまま、 周囲と同じように、 一般の男として生きれるのかもしれないと、 淡い期待を持ったのも事実だ。 そして、 クリスマスが過ぎた頃、 俺はユマと関係を持った。 女性は初めてだったから、 ユマがうまくリードしていた記憶がうっすらある。 しかし、 淡い期待はユマとの最中に、 幻想だったと改めて感じた。 俺はユマを抱いている間、 全く別な人を思い浮かべていたからだ。 具体的な誰かではなく、 俺が興奮する誰か。 それは紛れもなく、 同性だった。 俺は最後を何とか迎え、 一応の男女の事を終えた。 年が明け、 俺もユマも受験が迫ると、 距離は広がっていった。 ユマを踏み台にしてしまった、 人として後悔した。 ユマの愛情に俺は応えられない。 それだけが俺に虚しさを覚えさせた。 でも、 俺は自分を偽る事はできないとはっきりわかった。 俺はわざとユマに嫌われるように、 別れを決めた。 春はまだ遠い3月。 俺の3年間は、 まさに頂だった。 喜びも、 愛しさも、 虚勢も、 自分の魅力も、 知った。 卒業。 俺はもう戻る事のない、 鳥籠から一歩二歩と、 噛み締めるように、 1人自分の足で踏み出した。 頂に立ち続ける事を思い浮かべながら。 ただ、 もうこの時が、 2度と訪れないような、 一抹の寂しさも、 歩みを進める俺の中に、 静かに宿り始めていた。
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