貼る総理

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「総理、支持率が低下しております」 「またか…なにか新しい政策でもやって一時的にでも国民の感覚を麻痺させるか」 「そうですね。前回のサマージャンボマイナンバー宝くじは中々でしたしね」 「今回はどうするか」 「そうですね」 「お、いい案を思いついた。よく銀行とかで、何万人目のお客様です! とか言ってお祝いしてるだろ。そんな要領で、他にも街中で色々な記念を作ってお祝いするんだよ。そして記念のプレゼントをあげるんだ」 「さすが総理! いい案ですね」 「だろ? そしてプレゼントは俺のシールとかいいんじゃないか?」 「おー! 総理自ら! いいですねいいですね。じゃあ色々なパターン作りましょうよ。アロハシャツ着た総理とか。コックさんの総理とか」 「お前〜。ご当地キティちゃんじゃないんだから」 「え、駄目ですか?」 「採用」 「わっはっはっはっは」 「じゃあこれとかは?」 「それも、いい採用」 「わっはっはっはっは」 かくして、おめでとう政策が始まった。 サブタイトルに〜人生は宝くじのようなもの〜とつける、総理の案はなぜか却下された。 そして全国各地いたるところでお祝いがおこなわれた。 市役所を訪れた学生。 「おめでとうございます! あなたはこの市役所を訪れた二万人目のお客様でございます」 「へ? 俺戸籍謄本欲しいだけなんすけど」 「それは後でご自由にどうぞ! 記念にシールをプレゼント」 「この歳でシールいらないんだけどな」 歯医者を訪れたサラリーマン。 「おめでとうございます! あなたはこの歯医者に来た五千人目のお客様でございます」 「うわー。当たっちゃった。これ、医療系の施設でもあるのかよ」 「はい、すべての施設が対象です。記念にシールをプレゼント」 「でたシール。貼るとこねぇよ、もう」 マンホールで滑った学生。 「おめでとうございます! あなたはこのマンホールで微妙に滑った記念すべき十人目のお客様でございます」 「うああああ。あぶねーー」 「危なかったですね。記念にシールをプレゼント」  「これって客なの? シールいらねーー」 メロンパンを落とした主婦 「あっ」 「おめでとうございます! あなたはこの店でトングからメロンパンを落とした記念すべき二十人目のお客様でございます」 「あらやだ」 「安心してください。記念にシールをプレゼント」 「店員さん。メロンパン落としてしまいました」 「あ、置いといてください! あとでうかがいますので」 「お客さん。記念のシール」  「あ、はいはい」 一ヶ月後のある日 「どうだ? おめでとう政策は? 好評か?国民は喜んでおるか?」 「それがですね、総理。まぁいいや、簡単な国民の皆様のご意見読み上げますね」 「ワクワクじゃのぅ」 「では言います。シールいらない。シールのイラストの総理がムカつく。シールの総理が不快」 「ちょっとストップ。え、辛いんだけど。普通に」 「国民の意見なので」 「仕方ないか」 「続けます。普通にシールいらない。大人になってシール貼るとこない。パイロットの格好してる総理が不快。税金の無駄遣い。街中にお祝いスタッフいるの普通に怖い。お祝いスタッフキモい。あいつら所属どこ? 委託なん。シールって燃えないゴミ? ピンポンダッシュされた十人目とか言われても、捕まえろよ。それでシールもらって意味わからん。メロンパン落としてシールもらうって、これなに? とんち? メルカリでシールたたき売りされてますよ、百枚単位で。やっぱりシールの総理キモい、あと」 「ワタリ、ワタリ」 「はい?」 「もういいや。やめよう」 「読み上げるのをですか?」 「いやいや、政策政策。なんなの、メロンパン落としてシールって」 「調子乗りすぎましたかね、委託会社」 「委託か? お前かと思ったわ」 「私はピンポンダッシュの方です」  かくしておめでとう政策は一ヶ月足らずで終わった。  一年やる予定だったのでシールの在庫は山のように残った。  それらは一時的に総理の部屋に置かれた。 総理は「これは俺がけじめつけるから」と言ってそれを許可していた。  総理がメルカリを覚える一ヶ月前のことである。
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