後でしか悔やめない

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「もう昔のことだし、僕が盗まれたわけでもないので、今更騒ぎ立てる気はないです」 は?待てよ、なんだそれ。返事も聞かず、とことんマイペースに、山橋弟は自分だけ納得して話を進めて結論まで出している。騒ぎ立てる気はないって、人のうちまで押しかけてきてスルーってことか?マジで? 「ないですよ、本当に。最終的に漫画に描き上げたのはあなたなんだし、漫画にする際、どの程度兄の下書きがもとになっているのかは、あなたの持っているノートと比較しないとわからないでしょう。そのノートがまだあなたの手元にあるのかもわからない。おそらく処分してる、違いますか」 そんな質問、答えられるわけないだろう。 「セリフがシナリオどおりですから、ほぼ兄の下書きどおりと推測もできますが、ノートが残っていなければ推測でしかないです。見たところ、あなたにも罪の意識はあるようだし。なければさすがに騒ぎにして、会うのを拒否された場合も、さっさと曝してしまう予定でした。兄の作品が新人漫画賞受賞に値するものだったと証明された点に関してだけは、兄に報告してやりたいくらいです。兄のシナリオが尽きてからストーリーが失速して連載が打ち切りになったのは残念でしたけど」 嫌味か。苦々しく睨み返すが、相手は一ミリも動じない。 「ことさら騒ぎ立てることはしませんが、このノートはずっと保管します」 出したものをリュックに戻すと立ち上がった。さっさと消えてほしいのに、それだけかよ、と拍子抜けもする。こいつ本当に何しにきたんだ。リュックを背負った弟は、一方的にしてやられた感の拭えないオレの顔を一瞥した。 「あなたは。応募時に原作は兄だと、ただ一言。添えてくれればよかった」
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