後でしか悔やめない

1/8
前へ
/8ページ
次へ
 こぼしたジュースは拭けばいい。  スマホを忘れて出かけたら、取りに帰って翌日は二の舞にならないようにする。後悔なんてしたくてするわけじゃない。しなくて済むよう事前に避ければいい。  が、もう来てしまったものを帰れとは言えず、マンションのドアを開けたオレはまさに後悔の念に襲われていた。断ればよかった。会ったってロクなことにならない、わかりきったことだったのに。約束通りの時間に現れた年下の男が、弟、にしても高校時代のあいつに髪型も似ていて、面影が重なる。SNSに届いたダイレクトメッセージを開いたところから悔やまずにはいられなかった。  わざわざ会いたいだなんて、何の用か聞いても、会わないと話せない、会ってからでないと話せないを繰り返されて埒があかない。さらには絶対第三者には聞かれない二人きりの状態で話したいという。あなたのために、と押しつけがましく。仕方がないからうちに呼んだ。  〝会わない方が後悔しますよ〟  なんの話だよ。確かにこいつの兄とは高校の同級生で仲が良かったが、三年に進級した頃、交通事故で他界してしまった。十年近く経っているから、ダイレクトメッセージで山橋の弟と名乗られてもすぐには思い出せなかった。葬式で見かけたかもしれないが会うのは初めてだった弟が、こんなに似てるとは知らなくて、一瞬亡霊を見た気分にさせられた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加