後でしか悔やめない

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  大して広くもない部屋はほとんど仕事用の机で埋まっているから、キッチンスペースの小さなテーブルとそこに置かれた椅子を示したところで、オレのスマホが鳴った。山橋の弟は身振りで出るよう促している。 「はい」 表示された懐かしい名前に軽く驚きながらベランダに出た。久しぶり、と相変わらず明るい響きの声に挨拶を返しながら窓を閉める。 「デビューからもう十年にもなるか」 「ほんと、お世話になりました」 「今の、読んでるよ。また一緒に仕事できたらいいね」 礼を言って電話を切る。新人漫画賞を受賞して、最初の連載を担当してもらった編集者だけど、なんで突然、という疑問はもしかして、アレか。まだ内密のはずだけど、どっかで噂聞いたのかな。耳はや。  高校卒業前に受賞して、卒業と同時に少年漫画誌に連載を始めたものの、一年と続けることができなかった。その後もボツを出されまくって、オレはすっかりアシスタントが本業になりつつあったが、アシスタント仲間のアイデアが面白かったんで、そいつに原作を頼んでようやく別の漫画誌で連載にこぎつけた。特に世間に知られるでもないが、地道に連載も三年目に入ろうとしている。先日、その漫画に降ってわいたように実写化の話が持ち上がった。オレも原作者も本決まりを今か今かと待ちわびているところだった。
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