9人が本棚に入れています
本棚に追加
なんで、ちょっとあいつの代わりにオレがって、世に出してやるくらいの気持ちで、毎日漫画の話ばっかりしてたから、あいつも笑ってオレのが絵がウマイんじゃないなんて、言ってくれるんじゃないかって。そんなくらいのノリで、なのにそのせいで、十年頑張ってきたことがムダになっちまうのか?そんな。
這い上がれない穴の中でもがきながら、オレは初めて山橋に謝りたいと思った。そして気が付いた。今思えばあの弟は結局それが言いたかったんじゃないか、そしてそれがすべてだった。
あなたは、原作は兄だとただ一言。
それだけ。
それしかなかったのに、オレは。
もがく力もなくしてひたすら沈み込んだ。
「無理だろ」
こんな後悔するくらいなら、そうなる前に回避すればいい。そうするしかなかった、なんていったって。違うだろ、そりゃそれしかなくても、そうなる前のあの日のオレに避けられるわけがないんだ。だって今なんだから。今更どうにもしようのない今こそ、こんなに悔やまれるんだから。この後悔を味わわなけりゃ――あの日のオレにわかるわけない。
玄関口でどん底まで落ち込んだまま、どのくらい時間が過ぎただろう。テーブルの上でスマホが鳴っていた。鉛のような体を持ち上げるのに手間がかかって、手にしたときにはいったん切れたがすぐにまた着信があった。現在の連載担当編集者からだ。
「例の実写化、決まったよ!」
反応する前にかぶせられた。
「おめでとう!」
よかったね、ここまで頑張ってきた甲斐があったね、祝福してくれていたがオレの耳には入らなかった。
どんな気分?
完全に呪いの呪文だ。混乱した頭にゆっくりと歪みながらこだまして、首から肩へ、腕へ、胸から腹へ、脚へ、全身を麻痺させていく。
おめでとう。
終
最初のコメントを投稿しよう!