後でしか悔やめない

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 なんで、ちょっとあいつの代わりにオレがって、世に出してやるくらいの気持ちで、毎日漫画の話ばっかりしてたから、あいつも笑ってオレのが絵がウマイんじゃないなんて、言ってくれるんじゃないかって。そんなくらいのノリで、なのにそのせいで、十年頑張ってきたことがムダになっちまうのか?そんな。  這い上がれない穴の中でもがきながら、オレは初めて山橋に謝りたいと思った。そして気が付いた。今思えばあの弟は結局それが言いたかったんじゃないか、そしてそれがすべてだった。  あなたは、原作は兄だとただ一言。  それだけ。  それしかなかったのに、オレは。  もがく力もなくしてひたすら沈み込んだ。 「無理だろ」 こんな後悔するくらいなら、そうなる前に回避すればいい。そうするしかなかった、なんていったって。違うだろ、そりゃそれしかなくても、そうなる前のあの日のオレに避けられるわけがないんだ。だって今なんだから。今更どうにもしようのない今こそ、こんなに悔やまれるんだから。この後悔を味わわなけりゃ――あの日のオレにわかるわけない。    玄関口でどん底まで落ち込んだまま、どのくらい時間が過ぎただろう。テーブルの上でスマホが鳴っていた。鉛のような体を持ち上げるのに手間がかかって、手にしたときにはいったん切れたがすぐにまた着信があった。現在の連載担当編集者からだ。 「例の実写化、決まったよ!」 反応する前にかぶせられた。 「おめでとう!」 よかったね、ここまで頑張ってきた甲斐があったね、祝福してくれていたがオレの耳には入らなかった。  どんな気分?  完全に呪いの呪文だ。混乱した頭にゆっくりと歪みながらこだまして、首から肩へ、腕へ、胸から腹へ、脚へ、全身を麻痺させていく。  おめでとう。 終
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