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うーん、それは困りましたねと、わたしは首を捻り――そうだ!
「うん?」
フリーペーパーのお店紹介コーナーにSNSのアカウントも載せてみるのはどうだろう。ついでに二次元コードを付けて、端末のカメラから直接読み取れるようにすれば――
「素晴らしいね!」
目をキラキラと輝かせた黒山氏が、カウンターから身を乗り出すようにして言った。そのまま、パタパタと足音を響かせてカウンターから出てくる。
「もっと話を聞かせてよ! 面白そうだ!」
あ、でも割と大きな問題が。
「どんな?」
問われて窓の外を指差す。道を挟んで向かい側、猩々軒のお化け屋敷のような建物のことだと気付いた黒山氏は
「放っておこう。内緒で大丈夫!
というより、あそこに相談しちゃダメだ。
いいアイデアも全部ダメにされる」
思うところは色々あるのだろう。口吻にシワを波立たせ、積もりに積もった鬱憤を晴らすかのように早口でまくし立てはじめた。
「君が一番いいと思うように作ってよ、編集長さん。
あ、出来ればぼくや牛島くんには見せてくれると有難いけれど」
もちろん、そうさせて貰いますよと答えてから、はたと気付く。誰が編集長だ。柴本め、またいい加減なことを言いやがって。
「柴本くん、君のパートナーさんは凄いね!
どんどん面白いアイデアを出してくれるよ!」
「おげっふ」
座敷の上に転がったまま動かない柴本のもとへとかけて行く黒山氏。
あ、なんか今、怪しい感じのゲップ出た。
ちょっと待って、誰が誰のパートナーだって?
「あれ、君たち『そういう仲』じゃないの?」
いやいやいやいや!
「んふんふんふんふ」
わたしとほぼ同時に、柴本も首を横に振って否定する。なんだろう、今ちょっとイラっときた。
誤解のなきよう言っておくが、わたしと柴本は単なるルームメイトの間柄である。
家賃や水道光熱費その他生活にかかる経費を折半し、互いに無理のない範囲で家事を協力し合うだけ。
実利一辺倒、恋愛感情とは縁のない関係だ。
ただ、色々な人から話を聞いてみると、ルームシェアをする他の人たちはもっと余所余所しい関係のようだ。
わたしや柴本のように、ほぼ毎日のように夕飯を一緒に食べたり、連れだって買い物に出かけたり、ときには朝方まで大騒ぎしてゲームをすることは、どちらかと言えば珍しい部類らしい。
まぁ、方針は人や家でそれぞれ違うのだろうが、とにかく、付き合っているとか、そういった事実はない。
と黒山氏に言おうとしたとき、柴本が不満げにこちらを睨んでいるのに気付いた。
なんだその目は。言いたいことがあるならハッキリ言え。
「頑張ってね。応援しているから」
はぁ。
わたしと柴本を交互に見ながら楽しげに笑う黒山氏に、どう返せばいいか分からず、わたしは首を傾げた。
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