12.妨害工作とフォロー

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12.妨害工作とフォロー

 ――はぁ。  さっきとは違う理由でため息をつきながら、風呂から上がる。体と髪を拭いて部屋着を着て――柴本と違ってわたしは毛皮で覆われていないし、そもそも肌を見られるのは好きじゃない――脱衣場を出ると   「はい。――ええ、そうですか。わかりました。――ああ、それじゃ結局は同じってことですね」  相変わらずパンツとバスタオル姿の柴本が、椅子に座って誰かと通話している。いつもよりキリッとした表情。口調からすると仕事か。   「――わかりました。ええ、伝えます。  それじゃ、詳しくは日を改めて相談しましょう。   ――はい。是非とも。お休みなさい」  端末を切る。いつもならリラックスした顔に戻る筈だけど、仕事モードの顔のまま――ちょっと新鮮だけど、知性と品性を著しく欠いたパンツ一丁なのでどうにも締まらない――わたしを向いた。   「黒山さんからだ。さっき向かいの園山さんが訪ねて来て、フリーペーパー作りの予算は自治会費からは出せねぇって言ったらしい」    なんで!? つい大きな声で聞き返すわたしに 「落ち着けって。まぁ、理由はあの店見れば分かるだろ。  面白くねぇんだろうよ、やっぱし。  自分の土地なのに、他の連中が好き勝手するのはさ」  だからって――! 噴き上がる想いを言葉に出来ないでいると、しかし柴本は口元に笑みを浮かべ 「そんな訳で、フリーペーパーは商店街で作るんじゃなくて、有志だけで文芸クラブを立ち上げて、そこで作るんだそうだ」    ってことは、つまり  「基本は何も変わらねぇ。ただ、もう猩々軒さんの()()い料理の紹介に悩む必要は無ぇだけだ」  それは良かった。  ただ、後々あんまり良くなさそうだけど。    わたしがホッと胸をなで下ろしていると、柴本は机の上からルーズリーフを手に取った。横向きに、幾つもの図形や線が走らされている。    「レイアウト、考えてみたんだ。  お前の文章は悪くねぇんだけど、ちょっと長ぇな。  おれみたいに字を読むのが苦手なヤツにも、手に取って貰えるように、こんなのどうだ?」  図形を指し示すのを覗き込む。えーっと、写真をここに配置して、文章がこの―― 「そうそう。見出しは一行。  なんかこう、バーン! って感じで一文に纏めちまえば分かりやすくなるんじゃないかな。  で、どうしても説明が必要なときには、ここらへんに小さく三行くらいにして。でもゴチャゴチャするから最小限で。  長く書くより短く纏める方が大変かもだけど、どうだろ?」    ありがとう、とても助かる!  いつものようにお礼を言う。ところが柴本はどうしてか不思議そうな表情で、じっとわたしを見てから、弾けるような笑みを浮かべて 「へぇ。お前って、そんなふうに笑うのか」  ――――?  今、自分がどんな表情なのか分からず、顔を指でなぞっていると   「いつも辛気くせぇ面ばっかりしてるけど、なんだ、笑えるんじゃねぇか。  その表情(かお)、もっと見せてくれよ。おれ、そのためなら何だってやるからさ」  椅子から立って、呆気にとられたままのわたしの肩をポンポンと叩き 「じゃ、おやすみ。お前も早く寝ろよ。明日は仕事だろ? 夜更かしはお肌と毛並みの大敵だぜ」  言葉を失ったままのわたしを置いて、さっさとリビングから出て行ったのだった。  どうでもいいけど、あの派手なパンツ、寝苦しくないのかな?
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