2.会議は踊り狂う。やっぱり進まず

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2.会議は踊り狂う。やっぱり進まず

 ソーシャルメディアを中心として、ネット上に逆泉商店街と店の悪口が書き込まれ始めたのは、先月の半ば辺りから確認できた。それがおよそ半月ほどの間に、消費期限切れのパンにカビが生えるような勢いで瞬く間に増えていったのだ。 『店主の対応が悪い。トイレの芳香剤みたいな安っぽい香水のせいで、気分が悪くなって食欲がなくなった。★1』 『常連客ばかりを贔屓(ひいき)する店だった。  初めて店に入った自分には水すら出さないのに、後から来た常連客らしき人にはサービスで氷をたっぷり入れたアイスコーヒーを出していた。  料理が来るのも常連客からで、自分のところに注文を取りに来たのは常連客に料理を出した後。  水が無いので貰いたい旨を伝えたら、心底嫌そうな顔で氷すら入れていない水を乱暴に置いてくれた。★1』 『きわめて、不衛生。飲食店で、ゴキブリが這う、など、言語道断。  あと、枯れた、観葉植物が、店内にそのままに、なっていた。処分するなりすべきだと、思う。  ただ、料理の味付けは、好みだった。★2』 『塩味と油ばっかり感じる料理。  常連客にはボリュームたっぷりで出すようだったけれど、この味なら常連客認定されない方が良い。★1』 『店主のケツが最高! 頼めばヤらせてくれるビッチおじさんの極上裏メニュー。★4』 『ボロい店構えにプライドばっかり高い店主。  昔は良かったらしいけど今はハッキリ言ってクソ。  二度と行かない。★1』 『子連れで入店。  最初にカウンターを案内されましたが、小さい子がいるのでボックス席に座りたい旨を伝えたら心底嫌そうな顔をされました。  他に客はほとんど入っていないのに。  子どもがぐずって泣いたら露骨に舌打ちされました。  ラーメンは塩っぱくチャーハンは脂っこくて、子どもが食べられるものが何一つありません。  行かない方がいいです。★1』  こんな調子で、今や逆泉商店街の店について検索すれば、低評価の口コミばかりがヒットする有様だ。  いち早くこれに気付いたのが黒山で、他の店主たちにも聞いてみたところ、みな同じように客の入りが減っていることが判明した。状況を打開すべく、平日昼間の客が閑散としている間を見計らい、対策を立てるべく店主達は猩々軒2階の座敷に集まった。  だが、今や、上座から下座に至るまで皆揃って怒りに呑まれた挙げ句、単なる悪口大会の様相を呈していた。  ある経営者は獣人を差別する種族差別主義者の陰謀ではないかと口走り、また別の店主は川向こうの西区に住む鼻持ちならない連中のしわざであるとの持論を展開していた。  場を仕切るはずの園山さえも、皆が放散する昂揚(アドレナリン)の匂いに呑まれるまま根拠の無い悪口や憶測を盛り立てるだけの有様であった。  それを見た柴本は、部屋の隅に席を(あて)がわれたのは(かえ)って良かったかもしれないと、帰宅してからわたしに話してくれた。  そうして、怒りに呑まれた一行を遠巻きに眺めるしか出来ないでいる柴本に 「おい! そこのアンタ! さっきからずっと黙ってるけど、どうなんだよ!?」  誰かが声を投げ掛けた。
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