18.流言飛語に弄ばれて

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18.流言飛語に弄ばれて

 フリーペーパーを出し始めてしばらくの間、商店街の客足は順調に増えていった。  けれども3号目を配り始めた辺りから、また少しずつ、ネット上で批判的な意見や中傷を見かけるようになった。  その中には、柴本と彼が経営する便利屋の悪口もあって――ああ! 思い返しただけで腹が立つ!  どんな内容であれ、ごく親しい人物が悪し様に言われるのは不快で仕方がなかった。 **********  業務を終え、帰宅準備をしながら端末を見ると、メッセージアプリの通知が灯っていた。  黒山氏が、逆泉商店街文芸クラブのグループチャットに投稿していたらしい。それによれば   《脅迫状の件について。  今朝方、牛島くんのところにも投函されていたと連絡がありました。  以降は安全のため、顔を合わせての会話などは極力控え、アプリを通じてやりとりをしましょう。  フリーペーパーのための文書や画像ファイルも、今までのようにデータの直接渡しではなく、ファイル共有ソフトを使用します。  リンクは以下:》    これじゃ気分転換になんてならないなと思いながらも、続きに目を通す。   《脅迫状ならびにネット上の中傷書き込みについては、東岸署の生活安全課に相談済みです。  憶測だけで行動することは、状況をさらに悪化させかねませんので、絶対にやめてください。  皆さん、思うところはおありでしょうが、どうか今は耐えてください。  気晴らし用に愚痴や相談事専用のルームを作成しました。招待します:》    招待用のリンクに『拒否』を選択。本来、わたしはあの商店街にとっては部外者だ。それに――。  わたしがやるべきは、彼らと一緒に愚痴を言い合うことではない。きっと柴本だって同じ選択をする筈だ。そう思った。   **********    電車を待っていると、端末に着信があった。表示される番号に見覚えはない。  少し考えてから通話に出ると 『こんばんは。こちら、淡海県警東岸署(あわみけんけい・とうがんしょ)(やなぎ)と申します』  スピーカー越しの少々くぐもった音質でもはっきりと分かる、凛としたメゾソプラノ。女性である。  それはともかく、警察? 一体何があったのかと問うわたしに   『柴本光義さんのの方ですね』  ――――。ほんの少しだけ迷って、はい、と答える。 『落ち着いて聞いてください。先ほど、柴本光義さんが暴行を受けていたと近所の方から通報がありました』  ――え? 脳がフリーズし、理解を拒む。そんなわたしをよそに、柳と名乗った女性警官は続けた。 『幸い、怪我は軽く、命にも別状はありません。  今は聴取を終えて、病院で手当も済ませています。  なので自力で帰れるとは思いますが、別の意味で心配なので来ていただけると助かります』    すぐ行く旨を伝えて通話を切ってから、思い返す。柴本の人となりをよく知っているかのような言い方だった。  とにかく、駅のホームから改札に逆戻りし、そのままロータリーで客待ちしているタクシーに飛び乗った。
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