24.暗雲

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24.暗雲

 ヘルメットの下、ワイヤレスインカムが端末への着信を告げる。柴本は風防付き三輪スクーターを路肩に停めた。  11月初旬。その日は朝から鈍色の雲が空を覆い尽くし、時折ポツポツと雨を降らせていた。夕方になり、寒さはぐっと増してきた。  防衛隊在籍時代に課せられた訓練に比べれば大したことはなかったが、それでも塞がりかけた傷口に寒さがしみるようだったと言っている。    激昂した園山に殴られてから一週間あまりが過ぎた。傷は癒えて小さくなり、顔の半分近くを覆っていたガーゼや包帯も、今は小さな絆創膏を残すのみだ。    園山は警察に拘留され続けている。  柴本に全治3日の傷を負わせたことから傷害罪で立件された彼は、余罪の――逆泉商店街への脅迫状や、ネットを介した中傷への関与の取り調べがなされているらしい。    東岸署の刑事課長である柳小夜子――どうやら高校時代に付き合っていた時期があったらしい――ならば、現在の状況を内緒で教えてくれたかもしれない。  けれども、その必要はどこにもなかったし、当の柴本もすっかり関心を失ったようだった。    園山が捕まってからも、逆泉商店街への悪意あるいたずらや、ネット上での中傷の書き込みは止まらない。  5日前にはそば処 くろ山の戸口に石が投げ込まれ、ガラスが割られた。3日前には牛島菓子舗のシャッターに落書きがされた。    いずれも寝静まった夜中に行われたらしい。商店街では持ち回りで夜間の巡回を行うようになり、柴本もこれに参加することになった。    そんな中、商店街の客足は一時期よりも減った感はあった。それでも宣伝活動を始める前と比べれば、ずっと多くの出入りがある。  商店街の有志で作ったフリーペーパー、あるいはテレビやラジオの地域向け番組による情報発信は、功を奏し始めていた。  黒山氏のSNSアカウントもフォロワーを順調に増やしているらしい。ただ、こちらはリプライに誹謗中傷が書き込まれることもあるそうで、近く何らかの対処をすると話していた。    問題は絶えないながらも商店街を支えてゆこうとする気概は、その内側だけでなく、外側にも生まれつつあった。
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