24.暗雲

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 平日かつ天気の悪い今日、そば処 くろ山の客の入りはいつもより少なかった。その代わりにデリバリーのオーダーが普段より若干多く入った。  このデリバリーの試みもまた、商店街再生のための一環として始まった事業のひとつである。  配達員は現在のところ、河都市の地理を知り尽くしている柴本が務めているが、ゆくゆくは他の誰かを専門に雇うことになるだろう。   「もしもし」  インカムのスイッチをオンにする。黒山氏からだった。 『ああ、柴本くん。今、大丈夫かい?』  スピーカー越しの声は、どこか焦って、あるいは慌てているかのように聞こえた。   「今、ちょうど配達が終わって戻るところです」 『そうか。落ち着いて聞いてほしい。今、ネットで殺害予告が――』  いたずらや中傷の書き込みは、日増しにエスカレートしていった。  そんな中、柴本が経営する便利屋を中傷のひとつに、その同居人――つまり、わたしに対する殺害予告があったのだという。   《弱者に付け込んで金を巻き上げる詐欺師に裁きを!  手始めに今日の夕方、こいつを殺してやる!》  書き込みには2枚の画像が添付されていた。  片方にはピカピカに研がれた包丁を写したものが、もう片方にはいつの間に撮ったのか、、駅のホームで電車を待つわたしを遠くから撮ったもの。 「――ッ!」  息を呑み、ギリッと奥歯を噛み締める柴本に、スピーカーの向こうの黒山氏は 『警察には連絡した。柴本くんも、早く戻って』 「黒山さん、すんません。ちょっと帰るの遅くなります」 『えっ? ちょっと?』  インカムのスイッチを切り、腕時計に視線を落とす。    以前に、わたしは就業時間を柴本に伝えていた。  ちょうど、その退勤時間に近づく頃だった。   「くそっ、ギリギリかよ!」  現在地点からわたしの職場の最寄り駅に着く頃には、退勤時間が少し過ぎる頃か。  小さく悪態をついてから、三輪スクーターを急発進させた。   **********   『柴本くんもあんな風に取り乱すことがあるんだね。ちょっとびっくりしたよ』  黒山氏がそんな感じの話をしてくれたのは、だいぶ時間が過ぎてからだった。
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