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26.旺盛な息吹、愛情の名残
11月初旬の週末、昼下がり。
休日の逆泉商店街には人が行き交っていた。
ごった返すと表現するのは程遠いけれど、商店街のイメージアップの取り組みを始める前と比べれば、人の入りはずっと増え、家族連れの姿も多く見かける。
凝った製法とデザインの洋菓子と和菓子を扱う店。
SNSにも映えそうな作り方のヒントをくれる他、量販ルートには乗らない珍しい品物の取り寄せも引き受ける模型店。
良心的な価格ながら味の良い飲食店に居酒屋、それから――。
フリーペーパー作りに始まった情報発信の結果、大勢の人に知られるようになったものばかりだ。
発信する側である店主たちもまた、紹介するために自分たちの良さを模索するうち、気付くことも沢山あったようだ。
新たな試みは今もどんどん生まれていて、誌面やSNSのアカウントで盛んに情報発信が続いている。
次の週末は七五三のイベントが控えている。ここ河都では、ハロウィンやクリスマスに並ぶくらい盛大に催される。
それは現在でも幼児死亡率の高い獣人たちの習わしで、子どもの無事な成長に込める願いの強さのあらわれだ。
重大なイベントを前に、写真館での打ち合わせ、あるいはケーキやプレゼントの予約に訪れる人も大勢いるようだ。
そんな中にあって、流れに取り残されてしまったものの前に、わたしは立っている。
猩々軒――かつてはこの商店街のシンボルだった、鉄筋コンクリート3階建ての建物を見上げる。
ガラス扉には『売物件』の貼り紙が貼られていて人気はなく、通りを行き交う誰からも見向きもされない。
園山弘――三代続いたこの店の最後の店主であった男は、逆泉商店街に戻って来ることはなかった。
柴本への暴行により傷害罪で起訴された他、業務妨害や犯罪教唆、あるいは脅迫とみなされる行為により居場所をなくし、代々持っていた土地の権利も手放したのだと噂で耳にした。
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