6.瓢箪から駒が如く

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6.瓢箪から駒が如く

 ――はぁ!?  わたしは呆気に取られたまま、期待に満ちたまなざしを向ける柴本を見返した。やめろ。 「眞壁から聞いてるぜ。なかなか面白いモン書くんだってな」  眞壁走汰(まかべ・そうた)氏は、わたしと柴本が暮らしているこの家の持ち主だ。コンサルティング会社に勤務しているらしい彼は、海外勤務がとても多い。  この家で暮らし始めて1年と数ヶ月が経った今も、わたしはまだ直接会ったことはない。    まだ引っ越して来て間もない頃、眞壁氏とはじめてオンラインチャットを通じて話をしたときから、家賃の割り引きを条件に、日々の様々なことを書いてはメールで送り続けている。  その内容のほとんどは柴本の日常だ。  わたしの目の前にいるお調子者、行動力に犬の毛皮を被せたような男こと柴本光義(しばもと・みつよし)は便利屋だ。人々の頼み事を聞いては、有償で解決してゆく。  今しがた聞いた昼間の出来事もまた、便利屋の業務のひとつのようだ。  こんな調子で、この男の毎日はとても刺激的なのだ。  傍から見る分にはとても楽しく、平凡で代わり映えのしない日々を送るわたしの自分語りなどより、ずっと面白いはずだ――と言い続けてきた。  けれど、最近は少しだけ、わたし自身の話も聞いて貰えたらと思い始めているが、どうにもきっかけが掴めない。 「よーっし、決まりだな! なぁ、今週の土曜にでもさっそく取材に行こうぜ! メシとか全部、おれが奢るからよ! まぁ、取材だから経費で落ちるしな」  それは公私混同ではないかと首を傾げずにはいられなかったが、もはやわたしに何か言う気力は残されていなかった。  翌日の晩、イメージアップ作戦として商店街紹介のフリーペーパー作りのアイデアは、満場一致で受け入れられたと、柴本が嬉々として教えてくれたのだった。
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