スムース・ハンド・ラップアップ

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 相棒は、僕の心の内を知ってか知らずか、無神経にこの神様の使いの説明を始めた。 「スムース・ハンドフィッシュは海底を歩くハンドフィッシュの仲間で、人間による乱獲や環境破壊の結果、2020年に絶滅されたとされます。しかし最近、無人探査機BIO(ビオ)のタスマニアでの調査によりスムース・ハンドフィッシュと思わしき生物の映像が確認されました。映像は鮮明でなかったため、同種の他のハンドフィッシュとの見間違いの可能性もありましたが、おめでとうございます。今AIの判定の結果、この個体は100%間違いなくスムース・ハンドフィッシュです。」  僕は改めて、この奇妙だけど愛くるしい見た目の生物をまじまじと見た。絶滅されたとされる生物。それが今目の前にいる。こいつを食っちまって、この地球からまた絶滅宣言させようっていうのが、金持ちたちの最近流行りの“ゲーム”みたいだ。そして僕と相棒は、そのゲームのコマにすぎない。金のない僕らは、一攫千金を夢見るただのトレジャーハンターをロールプレイしている。大航海時代となんら変わりのない、ただの無鉄砲者。ポリシーも道徳心も、何もかも捨ててしまった。背に腹は変えられない。だってさ、この世から何が失われようとも、地球は正常に動くってことが証明されてしまった訳だからさ。いや、人間と海洋生物とでは、全然立場が違うのは分かっているけどさ。そうでもしないとやっぱり、罪悪感は拭えないわけだね。あいつらのように罪悪感のかけらもない連中と違ってさ。
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